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【医療】ホンネ外来 発/突然の宣告 しこり残る 余命告知 

2016/01/19

 医療にまつわる体験や感じたことを寄せてもらう「ホンネ外来」。医師らの心遣いがうれしかった、ほんの一言かけられたことで治療を頑張れたという投稿もあれば、逆に心ない言葉に傷ついた、医師らの言動で医療への不信感を持ったという内容も。「ホンネ外来 発」は、投稿に基づいて、患者と医療スタッフが信頼関係を築き、よりよい医療を実現する方策を探る。初回は、多くの投稿が寄せられる余命告知について、「告知が本当に夫のためになったのか」という愛知県の女性(64)の体験を基に考えた。 (稲熊美樹)

 ◇ ◇ ◇

 「あんなため息、それまで聞いたことがなかった」。女性は、2014年9月に69歳だった夫を胆のうがんで亡くした。告知を聞いた直後に、夫がついたため息が忘れられない。

 夫は、便秘と下痢を繰り返してかかりつけ医を受診。亡くなる10カ月前、検査のために紹介された病院に入院した。その病院を退院する予定だった直前に医師に呼ばれた。女性は「手術すれば治るという説明だと思っていた」という。

 会議室のような部屋で、夫婦で主治医から説明を受けた。主治医は、夫婦の方に顔を向けずに検査画像を見ながら「末期の胆のうがんで、大腸と腹膜にも転移しています。余命は1年です」と、淡々と告げた。夫が「えっ」と聞き返すと、「余命は1年です」と繰り返した。夫がため息をついたのはこのときだった。

 女性は気分が悪くなり、説明の途中で部屋を出たため、30分ほど1人で説明を聞いた夫から後で話を聞いた。「がんだとしても、胆のうを取れば治るんだと思っていた。なのに、いきなり末期がんと言われて余命告知。心積もりをする時間もなく、受け入れられませんでした」と振り返る。

 夫は引き続き入院して、抗がん剤治療を受けた。亡くなる1カ月前、夫は主治医から再び「話がある」と呼ばれた。女性は「聞きたくない」と言う夫に代わって、主治医を訪ねた。話は「余命1カ月」の宣告だった。病室に戻ってから、夫に何か尋ねられることはなかった。

 夫はその後、別の病院の緩和ケア病棟に移り、1カ月ほどして息を引き取った。女性は言う。「私は今でも主人に余命なんて、言わなかったほうが良かったと思っています」

 転院してから夫は、趣味のテニスやスキーの仲間たちと穏やかな時間を過ごした。仲間には「もう長くは生きられない」と伝え、身辺整理をしているように見えた。それでも、女性には「余命1年と言われたことがずっと引っ掛かっていたよう」に見えた。限られた時間の中で、自分がいなくなった後のことも心配してあれもこれもやらなければいけないと慌ただしく過ごした。「本当の最後に自分の人生を生きられたのか」と女性は今でも悩む。

 女性は、問い掛ける。「医師は多くの患者に、たくさんのことを告げなければならないのかもしれない。けれど、もし自分の家族がそう言われたらどう思うか。よく考えて話してほしい」

◆医師と患者 感情の共有を
◆川崎市・川崎協同病院 和田浄史外科部長

 川崎市の川崎協同病院は、手術した医師が最期のみとりまで、患者を一貫して診る。外科の和田浄史(じょうじ)部長に、余命告知について考えを聞いた。

     ◇

 患者には知る権利も、知らずにいる権利もあります。医師が知っていることをすべて伝えるのは正しいことではありません。ただ、うそを言ってもいけません。当院では入院するとき、検査や治療について患者が知りたいこと、知りたくないことを書面で確認します。その後、気持ちが変わることもありますから、しばしば聞きます。患者が知りたいかどうかも聞かずに医師が一方的に情報開示するのは、いいことではありません。

 予後(余命)は、私は聞かれなければ伝えません。個人差が大きく、医師にもはっきりは分かりません。幅があるので、例えば「お正月は迎えられるけれど、桜を見るのは難しいかもしれない」と話します。

 医師は伝え方を実践を通じて学ぶしかありません。しかし、患者と医師とでは圧倒的に立場が違います。患者は、大きな不安を抱えながら聞きたいとか、聞きたくないとか、思っているのです。私はがんの告知と、予後を伝えることは、同時にはしません。患者が受容できるように、段階的に伝えます。

 患者と医師は、事実共有より前に、感情を共有することが先です。患者と医師が、お互いを思いやる気持ちを伝え合った上で、医師が悪いニュースを伝えなければ、患者は受け止めきれません。私は患者に「できるだけ元気で長生きしてほしいから、この治療法を選択する」と伝えます。逆に治療をやめるときにも、感情とともに伝えないと、患者は医師から見捨てられたと感じてしまいます。

 価値観や感情も含めて治療について話し合い、落としどころを探り続けるのが医療の本質です。 (談)

女性は、夫の趣味だったテニスのラケットやカメラなどの遺品を仏壇の横に飾っている=愛知県内の自宅で
女性は、夫の趣味だったテニスのラケットやカメラなどの遺品を仏壇の横に飾っている=愛知県内の自宅で

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