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【医療】自費リハビリ施設急増 後遺症改善 医療保険には日数制限
2019/10/01
現役世代、強いニーズ
脳梗塞による後遺症などを改善したいのに十分なリハビリを受けられない、いわゆる「リハビリ難民」が近年、問題になっている。医療費の増加を抑えたい国が2006年、医療保険を使ってリハビリを受けられる日数を制限したためだ。一方で、急速に増えているのが、公的保険外で全額自費のサービスを提供するリハビリ施設。現状と課題を探った。 (小中寿美)
◇ ◇ ◇
脳梗塞や脳出血といった脳血管疾患のリハビリは、発症直後の急性期、回復期、維持期(生活期)と大きく3段階に分けて行われる=図。急性期は過度な安静による運動能力の衰えを防ぐこと、回復期は機能の回復を図ること、維持期は得られた機能を長く保つことが目的だ。
脳血管疾患について、国は06年、医療保険で行うリハビリ日数を回復期までの1日3時間、180日までに制限。それ以降は、介護保険を適用する仕組みをつくった。だが、主に介護が必要な高齢者を支えることを目指す介護保険でのリハビリは、まひなどからの回復より、今ある機能を維持することを目的とする。内容が軽めで、脳血管疾患患者の約15%を占める40~65歳の現役世代を中心に不満が高まっていた。
職場復帰などの希望を持つ人の受け皿が全額自費のリハビリ施設だ。昨年7月に開業した名古屋駅近くの施設では、脳梗塞で左半身にまひが残る女性(64)がリハビリを受けていた。トランプをめくるが、左手は右手の倍以上の時間がかかる。理学療法士の森佑大さん(31)は「難しいですね。でも上手です」と励ました。
女性は16年1月の発症後、しばらくは車いすだった。しかし、入院中に受けた医療保険でのリハビリの結果、つえを使って歩けるまでに回復。退院後は介護保険でのリハビリに励んだ。ただ、内容は参加者全員で同じ動きをする体操が中心。まひによる左肩の痛みをかばいながら取り組んだ。
今年1月から通うこの施設は、1人1人の状態に合わせたマンツーマンでの指導や、はり・きゅうを取り入れているのが特徴だ。1回2時間で週2回。今では痛かった左腕が上がるように。自宅では両手で鍋を持ったり、洗顔の際は両手に水をためたり、できることが確実に増えている。
費用は、16回の基本プログラムで税込み約30万円。「安くはないが、結果が出ている」と夫(66)は喜ぶ。以前は病院で働いていた森さんは「維持期に入っても、回復する例があることは国内外の論文で多数報告されているし、実際に見てきた」と指摘する。
施設は介護保険のデイサービスを行う「健栄」(名古屋市名東区)が運営。県外の患者も含め20~80代の約20人が通う。山田健生社長(54)は「利用者が満足できるまで付き合える施設をつくりたかった」と開業の理由を説明する。
自費リハビリにはさまざまな業種の企業が参入している。同じ名古屋市内では税理士法人の関連会社が昨年4月にいち早く開業したほか、国内に20施設を展開する最大手が10月に開店を予定。首都圏を中心に四施設を運営する豊田通商グループの豊通オールライフ(東京)も、中部地方での出店を視野に入れる。
国も開業を後押しする。経済産業省は一六年、介護予防や健康管理の保険外サービスの活性化を目指す「アクションプラン2016」を策定。医療・介護に関わる分野を新たな産業に位置づけたい考えだ。
◆法規制なし 「質の担保が課題」
2017年の厚生労働省の患者調査によると、脳血管疾患の患者は約112万人に上る。病院検索などのサイトを運営する「QLife」(キューライフ、東京)は同年、脳卒中の患者を診る医師220人にアンケートを実施した。その結果、約半数が「今の保険制度は就労など社会復帰を目指す患者のリハビリをカバーできていない」と回答。患者からリハビリの施設や内容について不満や要望を受けたことがあると答えた医師も同程度だった。
ただ、公的保険の外で、企業が運営する自費リハビリ施設はスポーツジムなどと同じ位置付けだ。開業や運営に法的な規制はなく、行政のチェックもない。お金に余裕のある人しか通えない、都市部にしかない-といった格差につながる恐れもある。
愛知県内のリハビリ専門医は、自費リハビリについて「日数制限で発生した需要を満たしており、今後さらに増える」と予測。一番の課題は「質の担保」と言う。「仕組みは塾と似ているが、違うのは成果が外から見えにくいこと」と指摘。「未熟なスタッフしかいなくても患者には判断できない」と懸念する。必要とする人が安心して受けられるサービスにするには、さらなる議論が求められる。
- 夫と肩を並べて散歩するのが女性の目標。立ち方や足の踏み出し方を指導する森佑大さん(左)=名古屋市内で
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