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【医療】医人伝/患者の葛藤闘病で実感

2019/09/17

海南病院(愛知県弥富市)
大橋 洋平さん(56)

 がんの転移が分かったり、体が動かなくなったりして「もう生きる意味がない」と訴える患者に、長年向き合ってきた。こうした「魂の苦しみ」に効く薬はない。じっくり話を聴いて信頼関係を築き、今を生きる意味を見いだしてもらう。そうした「スピリチュアルケア」の分野で、腕を磨いてきた。

 三重県生まれ、三重大卒の心やさしい緩和ケア医が、自身の生きる意味を突きつけられたのは、医師になって30年、昨年の夏だった。消化管からの大量出血で緊急入院。転移しやすい希少がんの消化管間質腫瘍と診断された。胃の大半を切除、抗がん剤治療を続ける中で、100以上あった体重は60キロ台まで落ちた。復職後は、午前中だけ患者や家族と面談する生活に。「数年は大丈夫かな」と思っていたが、手術から10カ月で肝臓への転移が見つかった。

 これまで患者の肝臓の写真は、何千枚も見てきた。「でも自分の写真を見て、本当に落ち込みました。患者さんはこんなに苦しかったんやと初めて分かりました」

 手術はあきらめ、抗がん剤で進行を抑える道を選んだ。考え付いたのが「足し算命」という言葉だ。「余命がどれだけ、って考えると、死までの日々をカウントダウンするような引き算になってしまう。それより、何日生きたかを考えるほうが楽になれそう」。転移の分かった4月8日を起点に、生きた日の数を足していく。そして、人との出会いなど、日々のささやかなことに感謝の思いを積み上げる。それが、今の大橋さんにとっての生きる意味。

 足し算を始めて140日目の8月25日、「緩和ケア医が、がんになって」(双葉社)という本を出版した。発病後の気持ちの揺れ、治療のつらさ、妻あかねさんの支えといった体験に加え、緩和ケア医として、がん患者へのエールも込めた。

 「患者風を吹かそう」の提言もその一つ。つらい状態にある患者が「いい人」でいる必要はない。「魂の苦しみを言葉にして、援助を求めよう、わがままを言おう」という趣旨だ。

 「食べたいものが食べられなくなって、本当に悔しいし、状態のいい患者さんはうらやましい。そやけど、しぶとく生きたい。そんな生き方もあるんやと共感してくれたらうれしい」と、やわらかな三重なまりで笑った。 (編集委員・安藤明夫)

医療者向けの講演会で、闘病体験や緩和ケアを語る大橋洋平さん
医療者向けの講演会で、闘病体験や緩和ケアを語る大橋洋平さん

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