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【医療】小児専門病院近くに家族の宿泊施設 患者の利用増加感染症対策など課題
2019/09/17
自宅から離れた専門病院で闘病する子どもの家族らが滞在できる施設が日本に登場して25年余り。安価に宿泊でき、「第二のわが家」として安心して過ごせるのが魅力だ。名古屋市昭和区の名古屋大病院に併設されたドナルド・マクドナルド・ハウス(DMH)なごやをはじめ中部地方でも整備が進むが、入院期間の短縮など小児医療の現場の変化を受け、新たな課題も浮かぶ。 (植木創太)
◇ ◇ ◇
3歳9カ月の時、神経の細胞にできるがん、神経芽腫を発症した曽我部史織ちゃん。今年5月、自宅のある大阪府羽曳野市から、全国15の小児がんの拠点病院の1つ、名古屋大病院に入院した。治験を受けるため米国へ渡るまで、入院は約4カ月に及んだ。
その間、母親の実紀さん(36)は「そばにいて少しでも安心させたい」と自宅に戻らず、添い寝を続けた。とはいえ2人で寝るには狭いベッド。娘のことが頭から離れず、常に心配を抱えていた。安らぎはDMHなごやでのひとときだった。
DMHなごやは2014年1月、同病院の敷地内で運営がスタート。日本に11あるDMHの1つで、利用料は1人1日1000円だ。吹き抜けの3階建て。入り口はガラス張りで明るい。部屋は12あり、共用スペースのキッチンでは自炊もできる。
実紀さんは月1、2回、娘の外泊許可をもらっては大阪から夫や息子を呼んで家族水入らずの時間を過ごした。「心も体もリラックスでき、久々にぐっすり寝られた」と振り返る。
最先端の医療を受けられる病院は国内でも限られるため、家から遠く離れた場所で、長期間、過ごすことを強いられる家族は多い。精神的な負担に加え、ホテルなどを使うと宿泊費をはじめ、経済的負担も大きい。
名古屋大病院の小児がん患者は、約8割が名古屋市外で、そのうち2割以上は県外だ。これまでに延べ3000の家族、6600人がDMHなごやを利用。最近の稼働率は6割を超える。施設を運営する公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン事務局長の山本実香子さん(46)は「日常を感じられる場所が家族には必要」と指摘。同病院小児科の高橋義行教授(52)は「家族と過ごした後、食欲が出た患者もいた」と喜ぶ。
患者家族滞在施設の運営者らでつくる「日本ホスピタル・ホスピタリティ・ハウス・ネットワーク」によると、日本に第一号が登場したのは1993年。ネットワークの事務局を務め、東京都内で九施設を運営する認定NPO法人「ファミリーハウス」が東京都調布市で開いたのが最初だ。現在、ネットワークに登録している施設は約130で、運営を担うのはNPO法人や市民団体、病院など。中部九県にも十余りある。市民や企業からの寄付で支えられている施設が多い。
そうした中、新たな課題も。背景には医療の進歩で治療の選択肢が増えたことに加え、患者のQOL(生活の質)を高めようという考えがある。ファミリーハウス事務局長の植田洋子さん(61)によると、病気にもよるが、小児医療の現場では、日常に近い生活ができるよう入院を長引かせず、入退院を繰り返して治療する傾向が強まっている。そのため、通院で遠方から来た患者が家族と使う例が増加。史織ちゃんのように施設でなら外泊ができる場合も多く、バリアフリー化や、より厳密な感染症対策が求められるようになった。
施設改善の頼みの綱は寄付だが、利用者が地元の人ではないことが多く、なかなか身近な問題と捉えてもらえない。行政の支援も受けづらいのが現状だ。植田さんは「自分の身内もいつか同じ状況になるかもしれないと、当事者意識を持ってもらえたら」と理解を呼び掛けている。
- 共用スペースにあるキッチンで、ボランティアの用意したかき氷を食べる闘病中の子どもら
- プレイルームでは、同じ悩みを抱える家族同士の交流も多い=いずれも名古屋市昭和区の「ドナルド・マクドナルド・ハウスなごや」で
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