中日 看護師のたまごナビトップ > 中日新聞 医療NEWS
【暮らし】増える高齢者の乳がん 患者数ピーク、60代後半
2019/09/05
84歳の上皇后美智子さまが比較的早期の乳がんと診断された。乳がんは子育て世代や働き盛りの女性に多いが、近年は高齢になってから発症する人も増えている。高齢者の乳がんはエックス線や触診などで見つけやすく、治療も十分可能。専門家は年齢にかかわらず、検診や受診を呼び掛けている。
高齢者の乳がんは増えている。その年にがんと診断された人のデータを国がまとめた「全国がん登録」の速報では、2016年に約9万5000人が新たに診断され、年齢分布では65~69歳の約1万3000人が最多。75歳以上は2万人を超えた=図。日本乳癌(にゅうがん)学会によると、1年間に診断される患者のうち75歳以上の割合は、10年で11%から16%に増えた。
国内の乳がん患者は従来、閉経前の40代後半が最も多かったが、10年ほど前から閉経後の60代後半にピークが移ってきた。欧米の患者の傾向と似てきており、愛知県がんセンター副院長・乳腺科部長の岩田広治さん(58)は「高脂肪の食事など、生活習慣の欧米化の影響では」とみる。
岩田さんによると、乳がんの進行は高齢者だから遅いということはなく、進行が早いタイプの可能性もあり、注意が必要だという。
治療の考え方も基本は若い人と同じだ。日本乳癌学会の指針では、高齢者でも、手術を最善の治療として勧めている。乳房の全切除ではなく、体への負担の少ない部分切除が中心で、薬物療法だけの治療と比べ、進行や再発を抑えることが実証されている。
ただし、「手術に耐え得る健康状態であれば」という条件が付く。手術は全身麻酔が基本で、体力がいる。「高齢者は健康状態の個人差が大きく、年齢だけでは判断できない」といい、基礎体力や持病、認知症があるか、家族の支援は得られるかなど、さまざまな情報を基に、本人にとって一番良い治療法を考える必要があるという。
一方、「もう年だから」と手術を拒否する患者も少なくない。その場合、薬物療法だけを行う選択肢もある。腎機能や肝機能の低下などで使える薬の幅が狭まることもあるが、岩田さんは「治療の選択肢はいろいろある」と話す。
高齢者の乳がんの大きな特徴は若い人に比べて見つけやすいこと。名古屋医療センター乳腺外科の医師で乳がん検診・診断が専門の森田孝子さん(57)によると乳腺と病変はマンモグラフィー(乳房エックス線撮影)でともに白く写るため、病変を見分けにくいときも。だが、閉経後、乳腺が徐々に脂肪に置き換わり、脂肪は黒く写るため、病変を見つけやすくなる。自己検診も乳腺の硬さが取れ、しこりに気付きやすいという。
国は40歳以上の女性に2年に1度、マンモグラフィーによる検診を推奨。自治体は国の指針に沿って上限を設けず検診を実施している。森田さんは「早く見つかれば治りやすいのが乳がん。元気で歩ける人は年齢にかかわらずぜひ受けて」と勧める。
一方、異常に気付きながら検診や受診に消極的な高齢者も少なくない。岩田さんによると、娘に無理やり連れてこられた患者や、しこりを10年近く放置していた患者もいた。「『がんは死ぬ病気』『治療は怖い』といった過去のイメージが残っているのでは」と推測。放置すれば痛んだり、しこりが皮膚に届いて臭いが出たりして苦痛は増す。
上皇后さまが手術を受けるとのニュースを知り、愛知県内の乳がん経験者らでつくる「あけぼの愛知」代表の金岡益代さん(63)は、「病気や治療に向き合うというメッセージを日本の女性たちに送ってくれた。勇気をもらい救われる高齢者がたくさんいるはず」と話す。
(小中寿美)
- 高齢者に多い脂肪性の乳房。乳腺が萎縮して全体が黒く写りがんが見つけやすい(森田さん提供)
最近の医療NEWSバックナンバー
- 2020/05/09
- 【愛知】感染者対応で特殊手当 名古屋市市立病院従事者らに
- 2020/03/17
- 【暮らし】<知って闘うアレルギー> 新型コロナ対策と両立を
- 2020/03/12
- 【愛知】救急車適正利用 漫画で啓発 軽症者らに注意呼び掛け 名古屋市消防局が公開
- 2020/01/21
- 【医療】母の孤立防ぐ産後ケア事業 育児不安 助産師らがサポート
- 2020/01/14
- 【三重】がんゲノム医療 三重大、拠点病院に「副作用出にくい」
- 2020/01/07
- 【健康】糖尿病治療は患者が主役 医師が勧める「教育入院」
- 2019/12/23
- 【社会】マイナンバーカード普及狙い 患者の顔認証機器 国が負担
- 2019/12/17
- 【社会】がん5年生存率66.4% 10~11年診断 改善傾向続く
- 2019/12/06
- 【愛知】理学療法士 専門誌の賞に津島市民病院・渡辺さんらの論文
- 2019/11/29
- 【愛知】看護師の基礎教育 現状と課題考える 名古屋で講演など