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【暮らし】運動機能が衰える「SMA」 進行遅い3型、潜在患者も
2019/07/23
筋肉をコントロールする神経の働きが弱まり、少しずつ運動機能が衰える遺伝性の「脊髄性筋萎縮症(SMA)」。国の難病に指定されていて、国内の患者数は千400人と推計される。一方で、1歳半以降に発症する進行が緩やかなタイプは、本人も気付かないまま時間が過ぎ、診断を受けていない潜在的な患者が大勢いると考えられるという。専門家は、病気を周知する重要性を訴えている。
特定の遺伝子の機能が欠けているSMAは、発症する時期や病状によって4つの型に分かれる。この疾患に詳しい東京女子医科大臨床ゲノムセンターの斎藤加代子所長によると、生後6カ月までに発症する1型、7カ月から1歳半までに発症する2型は重度で進行が早い。やがては人工呼吸器が必要になったり歩けなくなったりする。一方、成人期に発症する4型は運動機能に大きな支障は出ない。
注意が必要なのは1歳半から20歳ごろまでに発症する3型だ。全体の約2割を占めるとみられる。筋力の低下が数年単位でゆっくり進むため、病気を自覚しにくいのが特徴。手指の震えや筋肉のけいれんなどが見られ、次第に歩きにくくなる。
横浜市で歯科医院を開く下島直宏さん(54)は、3型患者の1人。体の異変に気付いたのは中学生の時だ。「走るのが遅くなって、運動不足かなと思った」。高校生になると、体育の授業で剣道の防具を着けた際、スムーズに立ち上がれなくなった。病院に行ったが原因は分からなかった。専門医のもとでSMAと診断されたのは、最初に異常を感じてから20年近く後だ。「ようやく病名が分かって救われた」と振り返る。
3型の場合、治療は、運動機能の維持を目指すリハビリテーションが中心だ。斎藤所長によると、3型の症状が重くなっていくのは思春期以降。「進学や就職といった忙しい時期と重なるため、病院に行かない人が多い」と話す。診断には血液の遺伝学的検査が必要だが、患者数が少ないことから、受診しても同じ神経疾患の筋ジストロフィーや筋萎縮性側索硬化症(ALS)と誤って診断される例もあるという。
そこで、SMAを知ってもらうための取り組みが進んでいる。製薬会社バイオジェン・ジャパン(東京)は6月、3型と分かった青年が、患者仲間との出会いを通して病気を受け入れるまでを描いた短編映画「Bon Voyage SMAの勇者、ここに誕生」(15分)を公開。SMAの情報サイト「TOGETHER IN SMA」と動画投稿サイトのユーチューブで無料で見られる。
今はつえをついて歩く下島さんは、主人公の演技指導に協力した。映画の完成イベントに出席した下島さんは「多くの人にSMAを知ってもらい、少しでもおかしいと思ったら受診してほしい」と呼び掛けた。
◆新薬2億円超え、日本では審査中
SMAを巡っては5月、高額な遺伝子治療薬の販売が米国で認められ、注目を集めた。スイスの医薬品大手ノバルティスの米子会社が開発した「ゾルゲンスマ」で、20歳未満で発症した患者が対象。投与は1回で済むが、価格は2億3000万円を超える。日本でも厚生労働省が画期的な新薬の審査期間を短縮する「先駆け審査指定制度」を使って審査中で、年内にも承認される可能性がある。
国内では、2014年に発売されたがん治療薬「オプジーボ」が、患者1人に年間3500万円かかるとして話題に。医療財政に与える影響の懸念から、薬価が引き下げられた。また、今年5月には、一剤3千300万円を超える白血病などの新薬「キムリア」の保険適用が決まるなど、高額薬が相次いで登場している。
(河野紀子)
- 短編映画の完成披露イベントで笑顔を見せる下島直宏さん(左端)=東京都港区で
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