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【岐阜】臓器提供 揺れた心 豪で息子事故死 大垣の女性が講演

2019/06/09

「家族で考えるきっかけに」

 岐阜県大垣市の稲川文子(ふみこ)さん(54)は約1年9カ月前、オーストラリアで短期留学中だった次男の大学院生真也さん=当時(23)=を、交通事故で亡くした。異国の地に駆けつけた際、脳死に陥った息子の臓器提供に夫(58)と同意。最近になり、講演でその体験を語り始めた。「聴く人がどう感じるかは自由。臓器提供について考える機会になれば」と願う。(稲田雅文)

 ◇ ◇ ◇

 「肝臓を受け取った人からのサンクスレター(お礼の手紙)を読んだ時、真也が『心配いらないよ』と言っている気がしたんです。提供が、間違いではなかったと思えるようになりました」。3月、同県内であった社会奉仕団体の例会。文子さんの話に、約30人が静かに耳を傾けた。

 「息子さんが事故に遭った」。オーストラリア・ブリスベンの日本総領事館から、携帯電話が鳴ったのは2017年9月。京都府内の大学院に通う真也さんは、夏休みを利用して1カ月間の語学留学中だった。

 文子さんが夫と航空機に飛び乗り、1日半かけて病院に駆けつけると、真也さんは集中治療室(ICU)で人工呼吸器を着けていた。道路を横断中に車にはねられ、頭を強打したという。眠っているようだったが、話しかけても反応はなかった。文子さんは「元には戻らない」と直感した。

 翌日、脳死と診断した医師は「受け入れるしかない」と語った。少し間を置き、「臓器提供をすることができる」と付け加えた。

 家族で真也さんと臓器提供について話したことはなかった。沈黙を破ったのは夫。「いいと思う。真也もいいと言ってくれると思う」。それまでショックで何も考えられなかった文子さんは「いいよ」と応じた。

 「臓器提供で誰かを救いたい」というよりは、「行き先ができて真也が救われる」との思いが強かった。

 臓器提供のため手術室に入る真也さんに、何度も「ありがとう」「さようなら」と伝え見送った。扉が閉まった瞬間「今、真也が死んでしまう」と、胸を突かれた。肝臓や腎臓のほか、心臓の弁や角膜などが、重い病に苦しむ現地の患者ら10人ほどに提供された。

 社交的で、高校教師になるのが夢だった真也さん。「発展途上国でボランティアをしたい」と語るなど、他人のために貢献したいという心の持ち主だった。

 だが、文子さんは帰国すると「本人の意思が分からないまま、臓器提供をして良かったのだろうか」と揺れた。改めて移植について学ぼうと本やインターネットで調べ、移植で元気になった多くの患者のことを知った。ただ、命を土台にした医療なのに提供側の家族が何を考え、感じたか、といった情報は少なかった。

 自身の体験を生かせるのではないかと思い、昨年秋、臓器提供の支援を行う県ジン・アイバンク協会(岐阜市)に相談。講演を決めた。「現実を伝え、多くの人に考えてもらいたい。家族で話し合ってもらえば、もしもの時の判断のよりどころになるはず」。これからも体験を語るつもりだ。

稲川文子さんの元に届いた肝臓の移植を受けた人からのお礼の手紙=岐阜県大垣市で
稲川文子さんの元に届いた肝臓の移植を受けた人からのお礼の手紙=岐阜県大垣市で

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