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【静岡】介護職 低賃金、人不足『壁』に 浜松の訓練生『やりがいに活路』

2010/01/12

 失業者対策と介護業界の人材不足解消の一石二鳥を狙い、国が昨年4月に始めた公共職業訓練「介護福祉士養成コース」。静岡県内では、雇用不安の中で転職を目指す20~60代男女の訓練生33人が2年間の勉強に励んでいる。就職後も、現場での人手不足や低賃金といった「壁」が立ちはだかるが、訓練生は「高齢者の話し相手に」などとやりがいに活路を求める。 (報道部・加藤拓)

 「1、2、3、せーの」-。浜松医療福祉専門学校(浜松市中区)の実習室。10代の学生に交じって福祉用具の技術演習に取り組む訓練生らの声が響いた。3人がかりで利用者役の学生の背、腰、足を持ち上げ、ベッドからストレッチャーに移乗させる作業。なかなか呼吸が合わず、若くて体力がある1年生でも苦戦していた。

 3人が号令をかけることで、こうした状況を打破したのは、元社会人ならではの適応力を持つ訓練生の班。昨年3月まで電機メーカーに勤めた井上大介さん(40)=仮名、同市浜北区=は、空き時間にほかの班の作業を入念に観察し、自身の番では腰をうまく使った運びで安定感を見せた。「好きな勉強ができ、毎日楽しい」という。

 井上さんが介護業界を目指したきっかけは7年前の祖母の死。多忙で職場の神奈川県内からなかなか帰省できず、最期を見届けられなかった。その後「亡くなる前におまえの名を呼んでいた」と両親から聞き、無念さがこみ上げると同時に「仕事のやりがいも減り、似た境遇の高齢者の心の支えに」と本気で転職を考え始めた。

 技術職から訓練生となった同市天竜区の田中洋さん(27)=仮名=は、11月中旬から同区の身体障害者施設「天竜厚生会厚生寮」で介護実習を3週間受けた。「障害者への偏見がなくなり、一人一人のニーズを考えるようになった。介護職への思いが強まった」と手応えを感じている。

 静岡県内で訓練を受ける33人は静岡福祉医療専門学校(静岡市駿河区)、東海福祉専門学校(磐田市)、浜松医療福祉専門学校の3校に分かれて通学。訓練終了後は介護福祉士の資格を得るが、福祉施設の労働条件は厳しい。浜松市では介護福祉士として就職しても初任給が月10万円台の施設がほとんど。多くの現場は人手不足の問題を抱える。

 ハローワーク浜松によると、介護関係の昨年10月の求人、求職状況(常用、パート含む)は求人数456人に対し求職者数281人。その中で実際に就職したのは48人にとどまる。

 職業訓練について「短期的には人手不足解消の糸口となりうるが、長期的には給与の見直しが必要」とみるのは、ハローワーク浜松職業相談部の田沢優部長(57)。「給料が上がれば退職者は減り、労働条件も良くなるはず」と語った。

 こうした逆境にも井上さんは「給料が少ないのは承知の上。独身で実家住まいだし、生活の心配はない。就職後は5年以上の実務経験を経て介護支援専門員(ケアマネジャー)を目指す」とさらなる夢を描いている。

介護福祉士養成コース 離転職者に介護福祉士の資格を取得してもらおうと、厚生労働省が昨年4月から3年間の計画で実施している公共職業訓練。授業料は国費でまかなうため無料で、高卒以上の学歴やハローワークへの登録が条件となる。職業訓練としては2年間と最長で、各都道府県から都道府県立の技術専門校などを通じて民間の福祉系専門学校に訓練を委託している。