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やってみました 記者たちの職業体験ルポ 自転車店

2009/12/03

組み立てに細心配慮

 豊橋市に赴任して三カ月。車で市内を回っていて気づいたのが、ヘルメットをかぶり、スポーツ自転車で道路を駆けていく人の多さ。中学時代には、友人と自転車で川の土手を海までツーリングしたこともある。懐かしくなり、豊橋市鍛冶町の自転車店「ホットギア」に弟子入りし、自転車の組み立てを体験した。
 店長の石河成也さん(49)は名古屋市の大学を卒業後、家業の自転車店を継いだ。店では主に十万円以上のマウンテンバイクやロードレースタイプの自転車を販売している。

 「じゃあ、電動自転車を組み立ててもらおっかな」。店長にさらっと言われ、驚いた。スパナやナットがずらりと並ぶ作業場には段ボールにくるまれた自転車の部品がいくつも置かれている。自転車はメーカーから販売店にそのまま乗れる状態で届く訳ではない。売り物にするためには一台ずつ組み立てる必要があるのだ。

 まず、後ろのスタンドをレンチを使って留める。部品をなくさないように気をつけて、ゆっくりと締めていく。次に、ペダル。専用のレンチを使い、取り付けようとしたところ、ねじ部分に潤滑油を塗るように指示された。「水が入るとさびちゃうでしょ」

 一番難しいという後輪ブレーキの取り付けでも店長はブレーキワイヤを覆う管のなかに、防水用のスプレーを吹きつけた。「お客さんのために、細部まで手を抜かないのがプロ」。店長の目がきらりと光った。ブレーキレバーを握りながら、利き具合を何度も確認。ワイヤが伸びることを計算して、少しきつめに調整するのがこつだという。

 もともと機械に弱い記者。もたもた作業する間に、パンク修理などを依頼する客が続々と店に現れ、店長はそちらの仕事をてきぱきとこなしていく。焦りながらも、なんとかハンドルと前かごを取り付け、約二時間かけて完成させた。

 「どうもありがとう。助かったよ」。店長からねぎらいの言葉をかけてもらって疲れは吹き飛んだ。石河さんは常連の客と一緒に自転車の大会やツーリングにいくこともあるそうだ。温かい店長の人柄を慕って多くの自転車ファンが集まるのだろう。マイ自転車で事務所へ戻る途中、冷たい晩秋の風に吹かれながら思った。(池内)

 【メモ】自転車店を開くのに特別の資格は必要ない。熱意と自転車の知識が何よりも求められる。販売台数と修理代が収入の二大柱。ちなみに石河さんの店では月の売り上げは300万円ほど。

てきぱきとスポーツ自転車の整備をする石河店長=豊橋市鍛冶町のホットギアで
てきぱきとスポーツ自転車の整備をする石河店長=豊橋市鍛冶町のホットギアで