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やってみました 記者たちの職業体験ルポ レジャーボート製作

2009/11/19

指紋の溝で凸凹判別

 刈谷市内を流れる逢妻川の中州に、数多くのレジャーボートが係留されている。近くを通るたびに気になっていたが、聞けば日本で数人いるだけのレジャーボートの手づくり職人がいるという。早速、門をたたいた。
 モーターボートというには立派なキャビンが付いているし、クルーザーと呼ぶにはかわいらしい。「三河ヨット研究所」の社長、堀江一夫さん(68)が造った「エスカルゴ20」だ。全長六メートル、幅二・五メートル、重量千三百キロ。帆を立てればヨットとしても使える。

 堀江さんが設計図を開いた。驚いたのは設計図が原寸大だったこと。「船を正確に製作するためには原寸大でなければだめ」だからだ。設計図を基にベニヤ板で船体の木型を作るが、ベニヤが少しでもずれれば、設計図通りの船はできない。大型クルーザーを造るときでも、誤差は一ミリ以内に抑えるという。

 木型が組み上がれば、その後はサンドペーパーで磨き上げる。記者も手伝ったが、これなら難しい作業ではない。が、とにかく根気がいる。一日かけても完全にピカピカに仕上げられるのはわずか一平方メートル分と聞き、気が遠くなった。

 堀江さんは指先で船体をなでながら、何やらチェック。「ここら辺、ちょっと出っ張ってるだろう」。指されたところを触っても何の違和感もない。しかし職人の手にかかると「指紋の溝でデコボコが分かる」というから神業に近い。わずかなゆがみでも修整する。「そこまでやらないと、船の曲線美が出てこない」のだ。

 船体の次はキャビンの内装工事。内装に使われるチーク材を手に取り、自動カンナをかけてみた。約三メートルのチーク材は瞬く間に磨きがかかる。造船は船体の知識だけでなく、木工やエンジンなどの動力、電気配線、水道の配管など幅広い技術と知識が求められる。

 エスカルゴ20に試乗させてもらった。「沖に出ると波と風の音しか聞こえなくなる。隔絶された世界を知ってしまうと、街に行くのが嫌になるよ」と堀江さん。しかし近年はレジャーボート需要の落ち込みが著しく、中古船の修理・販売や船舶を保管するマリーナ業務の方が、収入に占める割合が大きくなっているという。(浅井正智)

 【メモ】レジャーボートを建造・修理するのに必要な免許はない。エスカルゴ20の価格は483万円(税込み)。衛星利用測位システム(GPS)や自動操舵装置など100万~200万円のオプション付きのものが1隻売れると約100万円の利益が出るという。

キャビンの内装に使うチーク材を切断する堀江一夫さん=刈谷市港町の三河ヨット研究所で
キャビンの内装に使うチーク材を切断する堀江一夫さん=刈谷市港町の三河ヨット研究所で
堀江さん自作の「エスカルゴ20」
堀江さん自作の「エスカルゴ20」