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やってみました 記者たちの職業体験ルポ 畳職人

2009/11/06

ミリ単位で幅を調整

 乾いた草の香りを胸いっぱい吸いながら、ごろん-。子どもの時から畳の上に寝転がるのが好きだった。しかし、ここ十年ほど住んでいる部屋はすべてフローリング。畳が懐かしくなり、百年近く続く豊橋市佐藤の中野製畳所を訪ねた。
 イ草がふんわり香る製畳所で、お世話になったのはこの道十六年の四代目中村勝利さん(32)。アパートから依頼された畳の張り替えをしていた。畳の縁(へり)を包丁で切り取り、畳表を土台からはがす。その後、畳一枚に付き、三カ所で幅を測る。

 「一カ所だけ測れば良いのでは」との質問に、中野さんは「畳って真っすぐじゃないんですよ」。衝撃的な言葉が飛び出し、驚く記者に説明が続く。「どんな部屋も正確な正方形や長方形ではなくてゆがんでます。それに合わせて畳も一枚ずつミリ単位で調整しないと、はまらなかったりすき間ができます」

 「意外と繊細な作業が要求されるんだな」と納得した所で、いよいよ新しい畳表を土台のサイズ通り切り取っていく。中村さんが定規に沿って包丁で切るとプツプツといい音。早速、刃を当てると結構力が要る。ザリザリと聞き苦しい音がすると思ったら、悲しいかな切り口が曲がってしまった。

 落ち込む暇もなく、縫う工程に挑戦。手にパッドをつけ、長さ十五センチの太針で土台に畳表や縁を縫い付ける。目がけた場所に下から針を通そうとするが、土台の厚さは六センチ。なかなか貫けない。グッと押してやっと針が顔を出したと思えば、全く違う場所だ。「思い通りに刺すの難しいでしょ。普通にできるまで半年はかかります」と中村さん。簡単そうに見えるが、やはり技の習得は一朝一夕にはいかないらしい。

 しばらくして、中村さんが張り終えた畳を見ると、ぴしりとして立派な風ぼうに変わっていた。「納めに行くと『香りや手触りがやっぱり良い』と喜んでもらえる。そんな時、やっぱりやりがいを感じますね」。一枚一枚丁寧に作られている工程を目の当たりして、畳がますます好きになった。(世古紘子)

 【メモ】畳職人になるために特別な資格は要らないが、畳技能士の試験を受ける人が多い。中野製畳所は週休1日(日曜日)、労働時間は8時間。初任給は15万円ほど。現在は全工程を手作業で行う製畳所は少なく、同社もイ草を切ったり、縁を一部縫う工程以外は機械が担当している。

土台に合わせ包丁で畳表をまっすぐ切っていく中村勝利さん=豊橋市佐藤の中野製畳所で
土台に合わせ包丁で畳表をまっすぐ切っていく中村勝利さん=豊橋市佐藤の中野製畳所で