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やってみました 記者たちの職業体験ルポ 養魚場

2009/10/21

餌やりで健康を把握

 奥三河の設楽町に転勤して約二カ月。記者の体験を通じて職業や生産品の魅力を伝えるこの企画で「奥三河ならではのこと」と思案していたところ、先輩記者から「絹姫サーモンはどう?」と助け舟。全国で県淡水養殖漁業協同組合(設楽町豊邦)だけが生産する高級魚で、今年六月には大手コンビニと組んで押しずしを販売したことで知られる県産食材だ。絹姫サーモンのほかニジマスなどを養殖する同組合の宇連養魚場(同町東納庫)を訪ねた。
 寒狭川上流、山に囲まれひっそり静かな同養魚場。「そこの池に餌をあげてください」。水にぬれても良いようにとかっぱ姿で「よろしくお願いします」とあいさつするや、責任者の里見修一さん(25)から約十キロの餌が入った缶とスコップを手渡された。

 池の中央部分のコンクリート板に渡した幅約三十センチほどの板上に立つ。左腕に持った缶は重く、ふらついて池に落ちそうになる。

 「手首をうまく使って、群れを見ながら満遍なく行き届くようにまいてください」

 指示に従い餌をやる。ピチピチッと水面を跳ねて餌を取り合う姿が愛らしく、次々にスコップを振るが、幅広く行き届かせるのは難しい。横目で里見さんを見やると、どうも勝手が違う。

 助けを求めると、「早くまけば強い魚が食べている間に弱い魚も食べられる。間隔を置かないのがコツ」とアドバイスが飛んだ。

 里見さんによると、最も気を使うのは魚の健康状態。食い付きや群れの状態で病気の有無を判断し、餌の量や栄養剤の配合量を調整するという。「餌やりは魚との会話とさえ言われる最も大事な作業です」

 ホウライマスにアマゴかイワナを掛け合わせ、受精卵を二六度の温水で育てて生まれる絹姫サーモン。しっかりとした食感や上質な脂などが魅力だが、生産過程でふ化率が悪いことなどが難点で出荷に至るのは少ない。それゆえ「歩留まり(生存率)を上げるのがやりがい」という。

 ちなみに記者が餌やりした絹姫サーモンの出荷は三~四年後。一キロ当たり千七百円で取引され、刺し身やマリネ、ムニエルなどとして県内を中心に東京都などのレストランで提供される。(諏訪慧)

 【メモ】同組合への就職で必要な資格は特になく、「魚が好き」との情熱が何より大事。また生きもの相手のため、時間にとらわれない勤務に耐える気力も重要となってくる。募集は随時で、給与は高校新卒で16万円、大学新卒で18万円程度。

スコップで餌をやる里見さん。「魚との会話」と言われる重要な作業だという=設楽町東納庫の宇連養魚場で
スコップで餌をやる里見さん。「魚との会話」と言われる重要な作業だという=設楽町東納庫の宇連養魚場で