2009/10/16
不眠は、うつ病のサイン。静岡県と同県医師会は、同県富士市をモデル地区として「不眠が二週間以上続いたら受診を」と、睡眠キャンペーンを繰り広げ、自殺防止に成果を挙げている。日本の自殺者の中心は、四十代、五十代の男性たち。病気を認めたがらず、精神科受診をためらう働き盛り世代に「パパ、ちゃんと寝てる?」の呼び掛けが、心のバリアーを解かす。 (安藤明夫)
この事業の生みの親・同県精神保健福祉センターの松本晃明所長(精神科医)は、以前から国の自殺防止対策に疑問を抱いていた。
うつ病の早期発見のために内科などで広く使われているチェックシートは、気分の落ち込み、無関心などについて尋ねた後、あてはまる人には不眠、集中力低下などについて尋ねる形式。「若い人のうつ病は拾い上げられるが、働き盛りの世代は自分の弱さを認めるのが苦手。精神症状よりも先に身体症状、特に睡眠に注目する方がいいと思いました」
若い世代のうつ病も抗うつ剤が効きにくいなど問題が多いが、自殺に直結しやすいのは働き盛りの世代に多いうつ病。年間三万人を超える自殺者を年代別にみると、最も多いのが五十代の男性、その次が四十代の男性だ。このタイプのうつ病は抗うつ剤で治りやすいが、気軽に精神科を受診できない世代でもある。
人口二十四万人の産業都市・富士市で、二〇〇六年から「富士モデル事業」としてキャンペーンを開始。「パパ、ちゃんと寝てる?」のキャッチコピーとともに▽疲れているのに二週間以上、眠れない日が続いている▽食欲がなく体重が減っている▽だるくて意欲がわかない-の三項目の設問を設け、あてはまる人にはかかりつけ医や専門機関に相談するように呼び掛けた。
うつ病患者の90%以上は、不眠の症状が出る。仕事の緊張やストレスなどで一時的に眠れないことはあっても、休日を含め二週間不眠が続くのは明らかに変調だ。「パパ、ちゃんと寝てる?」の呼び掛けは、市内の路線バスの広告や横断幕、ポスター、カレンダー、地場産業のトイレットペーパーにまで広がった。
その一方、内科と精神科の連携に力を注いだ。内科医が睡眠薬を処方することは多いが、うつ病の診断は難しい。二週間以上眠れず、睡眠薬の効果が不十分な場合は、地域の精神科のクリニックなどに紹介するように依頼した。検討委員会を定期的に開き、内科医と精神科医が「顔の見える関係」を築く中で、紹介数が増えていった。薬剤師会も、市販の睡眠薬を連続服用する人に医療機関の受診を勧める運動に乗り出した。
キャンペーン開始後、同市内の自殺者数は、〇六年が六十四人(前年比14・7%減)、翌年が五十一人(同20・3%減)と大きな成果を見せた。〇八年は市町村合併により比較できなくなったが、ほぼ前年並みの数字という。
富士モデル事業を参考に島根県や大津市も睡眠キャンペーンを始めた。
松本所長は「不眠はだれにも理解されやすい問題で、働き盛り世代にも受け入れやすい。ぜひ多くの自治体で取り入れてほしい」と話す。
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