2009/10/14
人と機械で秋味保つ
この時期、幸田町の丘を“柿色”に染める秋の味覚・筆柿。紡錘形の実は一見渋柿のようだが、良品は17~18%の糖度を誇る、立派な甘柿だ。食いしん坊の記者が、同町六栗のJAあいち西三河・筆柿選果場で、出荷作業を体験した。
「はい、かじってごらん」。パック詰めも担当する柿農家の中村信吾さん(67)が食欲に応えるように、柿二つを差し出してくれた。どちらも、つやつや光るきれいな実で、記者にはまるで見分けが付かない。早速、一方を口に入れてみると…。渋いのなんの。思い切り顔をしかめてしまった。笑いながら中村さんが薦めてくれたもう一方を食べるとこちらは立派な甘柿。おかげで、舌のしびれはすぐに治まった。
筆柿は不完全甘柿のため、木になる実の約三割が渋柿。見た目での区別は難しいため、選果場には、日本に一つしかない専用の選別システムがある。約百メートルのベルトコンベヤーを旅する間に、人と機械が協力し、甘さ、大きさ、傷の有無をより分ける。
農家からカゴで届いた柿の実は、最初に「選果台」でチェック。幅一・五メートルほどのラインの上を流れていく柿を、地元のベテラン女性たちが目で見、触り、傷物を取り去っていく。記者も参加したが、そのスピードには全然ついて行けない。「先っぽの方が傷つきやすいよ」と筆柿の“穂先”を指さしてもらったが、熟練の早業に脱帽して見送るばかりだった。
柿の実は、初心者に構わずころころ。柿特有の黒い「ゴマ」の多寡で甘さを判定する光センサーの前へ転がっていく。ハロゲンランプの強力な光を当て、透過する光量が多ければ、ゴマの少ない渋柿。ほとんど光を通さないのが、質のよい甘柿。十一年前にコンピューター化された。
パック詰めにも挑戦させてもらった。色、形、へた付近のくびれの有無で、よく似た組み合わせを選ぶのがこつという。
天然のパズル合わせに四苦八苦する隣で、先生役の中村さんは素早く選び取っていく。「きれいに見えるようにね。地元を代表する作物を扱うんだから、気持ちを入れなきゃ」。誇らしげにはにかんだ。(中野祐紀)
【メモ】全生産量の95%以上を幸田町が占める特産品。皮がうすく、丸かじりもできる早生種。9月上旬~10月下旬に、750~1050トンが生産される。総出荷額は2億円以上。農家の収入は、10アール当たり約30万円。選果場の従業員は時給700~800円。渋柿はアルコールで渋抜きし、商品化する。
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