2009/10/08
(配属された先で)言っちゃったんですね。「僕がやった方がいい、僕だったらできる」と。若さゆえの怖さ知らずというか、生意気さというか。
入社後、配属になったのは(会社が)新規に育成したいという蛇口の事業だった。既に確立されていたタイル事業に対し、技術の蓄積も人材も態勢もなかった。何にも手本がなくても、やればできるんじゃないかと思ったんでしょうね。
そこで生み出したのが、温度の目盛りを合わせると、お湯と水が自動的に調節されて出てくる「サーモスタット」の仕組み。部品や部材を一からつくる作業から始め、すべてが手探りだった。
開発で流れやすいのが、他社があんなものをつくってて成功してるから同じものをつくるだとか、市場調査があるからとか。それも大切だけれど、答えがないところから、消費者にとって魅力ある新たな価値をつくり出していくのが開発の本分でしょ。
(手掛けて商品化した)水流のエネルギーを利用して自己発電する「自動水栓」も、タンクレスのトイレも、強いニーズはなかった。新たな価値で新たな市場を生み出せなければ、価格競争に巻き込まれて、長い目ではじり貧になりますよ。その考え方がこれまで会社の根幹に常にあったなあと思うし、わたしの経営哲学だ。
今後若い人から、その色が薄れていくのかなという気がするのは、未知のものに挑戦するガッツ。人事部に言ってるんですけどね、あんまり優秀な人間を採らん方がいいよと。学校で言われたことをきちっとやって、大学で「優」がたくさんありますという人より、「こんなばかなことをしました」という方が人材として役に立つぞとね。
(わたし自身も)開発で失敗した例なんて、山ほどあるんです。ほんとに売れるか売れないか分からない。でもやる気があれば、やらしたろうと。当時の上司にもそういうスタンスで扱われてました。そうしたいいところは今も残っておると思ってます。
だから、自発的に(商品のアイデアを)出してくれないかなあと。でも、理想の状態には程遠い。わたしが一番開発の経験が長くて、思い付いちゃう方なもんで、これやったろかと。それ言っちゃったらまずいですからね。我慢もものすごく必要なんですよ。
【かわもと・りゅういち】早稲田大理工学部卒。76年伊奈製陶(現INAX)入社。主に住宅設備の商品開発に携わり、自動水栓は90年度の第1回省エネバンガード21(現省エネ大賞)で最優秀賞の通産大臣賞を受賞した。00年に取締役に就任した後はマーケティング部長、タイル建材事業部長などを務め、07年から社長。57歳。愛知県瀬戸市出身。
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