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【長野】不況が高校生追い込む 激しい求人落ち込み

2009/09/21

 昨秋以来の景気低迷が地元で就職を望む高校生を苦境に追い込んでいる。来春卒業予定者の県内求人倍率(7月末現在)は4年ぶりに1倍を割り込み、前年同期を0.48ポイント下回る0.60倍と低迷。就職希望者約3000人のうち、1200人近くが働く場所を得られないおそれがある。非正規労働者を中心に多くの人々から職を奪った「100年に1度」の大不況。その第2波は若者たちの未来への門戸さえ閉ざしかねない。

 「失礼します」。高校生の就職活動解禁から2日後の18日、飯田市久米の信菱電機。面接試験に臨む男子生徒の声が応接室に響いた。志望理由、高校生活の思い出、自らの長所…。採用担当者の問いに全神経を研ぎ澄ませる。「人生で一番緊張した時間だったかもしれない」。30分余の面接を終え、生徒は大きく深呼吸した。

 「企業の将来を考えれば新卒採用は欠かせない」。同社の人事を統括する山田嘉之常務は語る。不況で自動車関連部品を中心に受注が落ち込み、今年4、5月の売上高は前年同期比3割減。定年退職者の継続雇用の打ち切りを強いられた。

 それでも新卒採用にこだわる理由は、常態化する若年労働者の減少。山田常務は「従業員の年齢構成は完全な逆ピラミッド型。団塊世代の大量離職で技術の継承が途絶えれば、企業の存続が危うくなる」と明かす。全従業員300人のうち、今後5年以内に15人が定年退職の見込み。「人こそ企業の財産。不況は優れた人材を呼び寄せる好機」

 高校生の就職難に地元自治体が動いた。飯田下伊那地方の14市町村は雇用した新卒者1人当たり50万円を事業主に交付する補助金制度の創設に乗り出した。飯田公共職業安定所によると、管内で就職希望の高校生約350人に対し、7月末現在の求人数は200人弱で、前年同期の半数に満たない。飯田市の牧野光朗市長は「このままでは150人の若者が職を求めて古里を離れざるを得なくなる」と危機感を強める。

 飯伊14市町村が全国に先駆けて定住自立圏構想の実現を急ぐ背景には、少子高齢化による深刻な人口減少がある。定住人口の増加に不可欠な若者の雇用が確保できなければ、構想自体が無に帰す。

 「時宜を得た施策と連動して求人数の上積みを目指したい」と話す同職安の前本秋次所長。求人開拓ローラー作戦と銘打ち、求人の掘り起こしを図る。県経営者協会飯伊支部長で多摩川精機の萩本範文社長は「現在18歳の若者たちが20年、30年後の古里を背負って立つという事実を思えば、経営者に課せられた責任は重い」と力を込める。

 「共働きの両親も不況に苦しんでいる。地元で一日も早く自立して家族を安心させたい」。面接からの帰路、男子高校生が明かした。切実な思いは報われるのか。経済という一側面ではなく、社会全体の力が問われる。

 (長谷部正)

厳しい雇用情勢の中で面接試験に臨む来春卒業予定の高校生=飯田市で
厳しい雇用情勢の中で面接試験に臨む来春卒業予定の高校生=飯田市で