2009/09/16
“生き物”相手 作業膨大
新城市に赴任して一カ月弱。藍(あい)染め作家が作品作りに取り組んでいると知り、JR新城駅近くにある原田弘子さん(61)の工房を訪ねた。藍染めを体験させてもらいたいと頼み込み、特別に認めてもらった。
工房の奥の、腰の高さほどある二つのかめの前に案内された。中の液体はまさに藍色。所々に浮くあわが発酵していることを感じさせた。
片方を縛り、もう片方を輪ゴムで止めた白のハンカチを恐る恐る漬けてみた。液体が濃い藍色なのは表面だけということが、ハンカチが透けて見えることで分かった。ビニール製の手袋を通してとろりとした感触と、ややひんやりとした感じが伝わってきた。
中腰でないと手が液体に届かず、すぐに腰が痛くなった。「こうするんです」。原田さんが腰を落として両ひざの内側でかめをはさみ、背筋を伸ばして見せた。
「もうあげていいですよ」。原田さんの言葉でハンカチをあげたが、黒っぽくなったハンカチがどれだけ染まったのか見当がつかない。バケツに張った水に漬けてほぐすように洗うと、ようやく淡い藍色に染まっているのが分かった。
縛りをほどき、輪ゴムを外すと、染まらなかった白い部分が微妙な柄を作っていた。「片方の白い部分をもう一度染めてみましょう。藍は何度でも重ねて染めることができるんです」。今度は白い部分があるところだけを漬け、再びあげて洗うと、白かったところに薄い色がつき、所々に雲がある秋の青空のような仕上がりになった。
だが、染めるまでには膨大な作業があることを教えてもらった。「すくも」と呼ばれる藍の染料や、木灰を水に浸して取るあくなどをかめに入れて発酵させ、バクテリアの活動を良く保って初めて、染めることができる「藍が建つ」状態になるという。
現に原田さんはこの夏、毎日工房に来てかめの中の状況を確かめ、ひしゃくでかきまぜたり、バクテリアの餌としてコーンスターチを溶いて与えたりして状態を保ってきた。
「苦労してデザインなどを全部決めてから最終仕上げとして染めるので、染めるときはとても楽しい」。原田さんは笑顔でそう話した。(稲垣太郎)
【メモ】主な収入は藍染め教室などの講師料。特別な資格は必要ないが、「十年ぐらいコツコツやって技術を身に付ければ生徒を持てるようになる」と原田さん。「公募展に入選すれば作家として認められる」という。
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