2009/09/03
本業以外の仕事「副業」をする労働者が増えている。長引く不況で、給与を抑えて副業を容認する企業も出てきているからだ。減収分の補てんを目的に副業する人が多いが、起業やスキルの向上を目指して取り組む人も。最近の副業事情を探った。 (服部利崇)
「本業の給与が減り、食費を削って何とかやりくりしている。副業をしないと、病気など不意の事態に対応できない」
東京都内在住で中小企業の営業事務をしている元木晴子さん(36)=仮名=は五年前から副業を始めた。正社員だが、本業の年収は手取り約二百万円しかない。さらに今春給与の一律5%カットが決まり、六月支給分から月の手取り額は十五万円を切った。
副業を始めた当初は老後の備えと考えていたが、月収が減り生活費にも充てざるを得なくなった。派遣会社に登録し、土日や有給休暇をつぶして月三、四回、一日約八時間働く。単発のコンビニのレジ係、コールセンターの電話対応、バーゲンセールの誘導係などで稼ぎは月四万円ほどだ。
「本業の多忙期は副業をしない。本業に迷惑をかけたくないし、自分の健康を守るため」。元木さんは厚生年金に入っているが、老後が不安という。「疲れがたまっているが、働けるうちに働かないと」と歯を食いしばる。
総務省の二〇〇七年就業構造基本調査では、複数の会社に雇用される人は約百三万人。二十年前からほぼ倍増している。人材サービス業「インテリジェンス」の三月の副業調査でも正社員約千人の30・8%が副業経験ありと回答。収入の使い道としては「生活費の補てん」の29・6%が最多だった。生活防衛のための副業が広まる傾向が出ている。
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一方、自己実現やビジネススキルの向上を狙って副業を始める人もいる。大手総合商社の正社員で貿易事務を担当する渡辺由紀子さん(41)は一月、ヨーロッパ製ストッキングのネット販売を始めた。
「本業で生活に困らない給与ももらっている。でも雇われる一生で終わりたくはない」と昨夏、起業支援の有料講座「トレンダーズ女性起業塾」を受講し、起業のノウハウを学んだ。
「女性の脚を美しく見せる欧州製ストッキングを扱うのが夢だった。本業で培った英会話や商取引知識が役に立ち、ようやく一国一城の主になれた」。休暇を利用し欧州へも二回買い付けに行った。顧客も増え売り上げは右肩上がり。「副業で一本立ちできれば」と渡辺さんの夢は広がる。
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一方企業側は昨冬以降、製造業を中心に副業容認の動きが出ているが、まだ、冷ややかだ。労働政策研究・研修機構の〇四年調査では50・4%が全面禁止しており「本業に悪影響が出ない範囲までしか認めない」(日産自動車)とくぎを刺す企業も。
社会保険労務士の金山驍(つよし)さんは「労働者は企業に対し、誠実に労働を提供する義務がある。疲れから業務遂行に影響したり、副業先に業務上の秘密を漏らしたり、法律に抵触する業務に就いたりしたら、最悪懲戒免職にもなりかねない」と注意を促す。
労働法に詳しい安西愈(まさる)弁護士は、長時間労働を誘発しかねない副業に否定的で「企業が副業をしなくても足りるだけの賃金を支払うのが先決」と訴え、「労災や過労自殺の場合、本業と副業のどちらの企業が負担するのか、法律は想定できていない。つまり十分な補償が受けられない可能性もある」と懸念する。
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