2009/08/20
大輪の裏 トゲに“泣く”
ビロードを思わせる光沢のある真っ赤な花弁。甘い香りを辺りに振りまくオールドローズ。外側の花びらは緑っぽい白なのに、中央が淡いピンクに染まった上品な大輪。苗の販売やアレンジメントなど、バラを専門に扱う碧南市志貴崎町の「K・I・ローズ」は、どこを向いても花と緑と香りを満喫できる。こんなに花に囲まれた仕事は、女の子なら一度はあこがれるのではないだろうか。
「もともと植物が好きで、バラにはまった」という店長の神谷逸志さん(53)は一九九八年に脱サラ。色や香り、用途、希少性など、客の細かな要望に応えられるようにと、自宅の敷地と隣接する借地で千種類千五百本のバラを育てている。華麗なバラ園芸を一度でも体験しようと、神谷さんの元を訪ねた。
冬は剪(せん)定や元肥(もとごえ)を施し、人気品種は接ぎ木や挿し木で苗を増やす。春には新苗の植え付け。病虫害の予防も必要で、薬剤は風のない早朝に一鉢一鉢、わずかな量だけを与える。風通しや日当たりにも気を使い、栽培に適した土のブレンドもこなす。「春に新芽が出始めるとバラにつきっきりの生活になる。好きでなければできませんね」
夏場は、秋に大輪を咲かせるための整枝や花がら摘みが欠かせない。水やりは好天だと日に二回。茎に付いた虫などを取り除きながらの水やりは、一回で二時間ほどかかる。
花がら摘みを手伝ってみた。切り取った花が落下しない、特殊なはさみを借りての作業。腰をかがめる必要がないので「楽勝」と思ったが、炎天下ではすぐに汗が噴き出てくる。素人の記者では、はさみを入れる場所に迷って時間がかかる上、あちこちのトゲに服や腕を引っかけ、作業がすぐに中断してしまった。思ったようにスムーズには進まない。「なかなか痛いでしょ。Tシャツがぼろぼろになるんですよ」と神谷さん。美しい花を咲かせる舞台裏。香りほどには甘くはなかった。(坂口千夏)
【メモ】資格は必要なく、神谷さんの場合は園芸の本などで独学した。店を構えるには販売用の苗を育てる土地の確保が不可欠だ。苗木の小売価格は1鉢1000~5000円。生計をたてるには個人客への販売のほか、公園など大量出荷できる機会を多く得る必要がある。バラ園芸の教室を市内外で開いて愛好家を増やすとともに、冬期は顧客から庭の剪定なども引き受けている。
転職・求人情報検索(名古屋市・愛知県・岐阜県・三重県)はトップから