2009/08/20
「製造業を十社以上受けたが、すべて落ちた。一人の求人に八十人が殺到した会社もあった」
自動車関連の金属塗装会社正社員だったAさん(36)は三月、仕事激減で解雇された。月十五万円の失業給付は年末まで。「それまでに何とか職を見つけたい」と願うが、再就職の道のりは厳しい。
IT会社正社員だったシステムエンジニアのBさん(43)も三月に職を失った。一戸建て自宅も月二十万円のローンが払えずに処分、病弱な両親と賃貸住宅に引っ越した。敷金・礼金などで百万円以上あった貯蓄はゼロに。
再就職先も正社員を希望する。「やはり派遣は不安定。でも転職した五年前と比べ、求人は十分の一以下」とため息が出る。
昨秋の「リーマンショック」から始まった解雇の波は、非正規労働者から正社員にまで及んでいる。雇用情勢に好転の兆しは見られない。
ハローワークで扱う求職者一人に何件の求人があるか示す「有効求人倍率」の六月の数値(季節調整値)が過去最悪の〇・四三倍になった=グラフ。正社員有効求人倍率は〇・二四倍、一つの求人を四人で取り合う厳しさだ。
六月の完全失業率も5・4%。完全失業者数は三百四十八万人に膨れ上がった。正社員の失業も、百人以上の離職があった企業の事例に限定しても、四万一千人以上を超える見通しだ。
雇用対策の柱、職業訓練は、希望者が殺到している。前出のAさんは溶接訓練講座に滑り込めたが、「別メニューでは三十数人の定員に百六十人が応募した」と話す。受講できても、再就職にすぐには結びつかない。余剰人員を抱えることを嫌う企業が採用のハードルを上げているからだ。
政府は、雇用を含めた経済対策を講じてきた。しかしAさんは「定額給付金や高速道路料金引き下げなどで景気が浮揚すると宣伝していたが、失業者の末端まで届いていない」と憤る。
◆政策ここをチェック
シナリオどう描く
自民党は、労働者に賃金を払いながら休業や職業訓練をした企業に助成する雇用調整助成金の拡充を訴える。企業を支援することで、賃金や雇用を増やそうという狙いだ。
民主党は子ども手当など家庭の可処分所得を直接増やし、消費を拡大させて雇用創出につなげるシナリオだ。企業に手厚く投じて雇用を守る自民党とはアプローチが異なる。
独協大経済学部の阿部正浩教授(労働経済学)は「自民党案では好況期がくれば助成した事業所・業種は成長に転ずるのか。民主党案では労働者への直接支援の資金が消費に回り、本当に雇用につながるか道筋が不明確」と指摘する。
自民、民主とも技術革新や国際化で成長戦略を描く。だが「成長が見込めない産業で雇用維持だけしても日本はじり貧になる。可処分所得が増えるような高付加価値の産業を生み出すためにはどんなシナリオがあるのか、それが政党を選ぶポイントになる」と話す。
つまり「資金(税金)を企業に渡そうが、労働者に渡そうが、結局は使われ方。『生きた金』になるかどうか」と言う。経済成長、さらに雇用に結びつくビジョンを各党がどこまで示せるか、注視してみよう。 (服部利崇)
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