2009/07/17
ドドドドド-。こっちはだいぶ前から腕が上がらなくなっているのに、周りの太鼓は力強く鳴り続けている。ビリビリとしびれが腕ばかりか、顔にまで。腹筋も引きつってきた。向こうでスタッフの小林純子さんがリズムを取ってくれているが、合わせて打つことすら思うようにできない-。
東栄町東薗目のプロの和太鼓衆「志多(しだ)ら」。舞台を見るたび圧倒される。胸に響く演奏を、いったい何が支えているのだろう。ばちを握ったことのない、「もやしっ子」代表の二十六歳には無謀な挑戦とは知りつつ、稽古(けいこ)場に入らせてもらった。
「硬いなぁ」。締太鼓の前であぐらを組むと、早くもこの日の先生、ちゃぼさんに苦笑されてしまった。志多らの創設メンバーで、二十年の経験がある。私は研修生五人と一緒に打つことに。
締太鼓は座って打つ小型の太鼓。打ち方の基本を学べる。腕を上げたら力を抜き、自然に落とすように打つ。打ったらばちを前に突き出すようにして腕ごと持ち上げる。「難しいけど、力を抜かないと長く打てないし良い音も出ない」
稽古は一時間打ち続ける「打ち込み」から始まった。私は一秒に一回ほどのペースで挑戦。研修生と比べ、速さは四分の一だ。だが十分も経たないうちにまず左肩が重くなり、その後も次々と体に異変が。もうやめたくなるが、意地もある。自然に、研修生たちと同じように声が出る。少し気力が戻り、研修生も必死だと知った。
最初に教わったことはほとんど実行できないまま、とにかくたたき続け、一時間。ばちを離すと手がけいれんしている。「体験した人で他にもそういう人、いました」とちゃぼさん。太鼓の周りばかり打っていたため、新品のばちはボコボコになってしまった。
結局、志多らの演奏の秘密は少しも分からなかった。ただ、「つらい」と思う自分と日々戦い続けることは、情熱がないとできない。最低限なのかもしれないが、素晴らしい舞台に必要な条件の一つなのだろう。運転で再びしびれ出した手を、声を上げて鼓舞しながら帰った。(日下部弘太)
【メモ】志多らのメンバーになるにはまず、毎年1月の選考試験を通過し研修生になる必要がある。研修期間は2年間。無給で共同生活を送り、1年ごとに試験がある。「太鼓が好きなことはもちろん、体の丈夫さも大事」とちゃぼさん。メンバーの給与は「すずめの涙ほど」とか。
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