2009/07/10
職場での心の病の増加で、従業員のメンタルヘルスの維持や改善を果たす役割を期待されているのが、産業医だ。職場に身近なはずの存在だが、もっと活用されていい。産業医が担う仕事とは何だろう。
「従業員とも面接でき、職場の環境について企業にも勧告できるのが産業医だ」
筑波大大学院の松崎一葉教授(産業精神保健学)は、産業医の役割をこう説明する。
従業員の健康管理のため、労働安全衛生法で常時従業員が五十人以上いる事業所は、産業医を選任しなくてはならない。同千人以上の事業所は専属産業医の選任が義務だ。産業医は、日本医師会の研修を修了しているなど一定の要件を満たす医師から選ぶ。
健康診断や相談、保健指導などを従業員に対して行うだけでなく、企業側に対して環境改善などに指導や助言など勧告もできる。患者と、病の原因になる職場のストレス対策の双方にかかわれる。
こうした職務を職場のメンタルヘルスケアに生かすよう明確に位置づけられたのは、「最近のこと」(厚生労働省)だ。二〇〇〇年に出された同省の指針で、産業保健スタッフとして職場の心の健康づくり対策の推進を担い、労働者や企業の管理監督者を支援する、と定められた。
うつ病などで休職した従業員の職場復帰について同省の手引書では、「復職可」とする主治医の診断書を、産業医が精査して意見を述べることになっている。産業医は主治医と異なり、職場の実態を把握していると考えられているからだ。〇六年には、時間外・休日労働が月百時間以上になるなど長時間労働者に行う面接指導制度が創設されている。
「だが、大半の産業医の働きは活発とはいえない」と北里大大学院の田中克俊准教授(産業精神保健学)は指摘する。
同省の労働安全衛生基本調査(〇五年)によると、産業医が「健康診断結果に基づく事後措置や再発防止の指導」を行ったと回答した事業所は約74%にのぼったが、「職場環境への医学的な評価や必要な措置を勧告した」割合は約20%、「メンタルヘルスの相談」は約18%にとどまった。同省の労働安全衛生特別調査(〇七年)では、労働者のうち仕事や職業生活に関する相談を「産業医」にした割合は6%以下だった。
「産業医に守秘義務があることを知らず、相談内容が会社に知られることを恐れて従業員が相談できない面はある」と松崎教授。田中准教授は「企業の人事労務担当者の産業医を尊重する意識も、産業医自身のやる気も足りない」と言う。
産業医を選任する義務のない従業員五十人未満の小規模事業所は、その九割以上、従業員数にして約六割を占める。東京都医師会の産業保健委員会委員長を務める北条稔医師は二十年来、東京都大田区の町工場などで健康相談などを行ってきた。
うつ病など体調の悪い従業員がいる経営者に精神科医を紹介したり、休職者が復職するときの労働時間や勤務体制を決めるためのアドバイスをしている。「零細企業も心の不調者を抱え対応に悩むが、対処する人材も金も情報もない」と話す。
中小零細事業所を対象に、各地の地域産業保健センターの産業医らが健康相談などを行っているが、不十分だ。
「産業医に勉強が必要なのはもちろんだが、企業の人事労務担当者の理解も大切。また産業医がすべて対処しなくても、従業員が相談しやすい企業内の保健師や看護師に心の健康問題の研修を行ったり、信頼できる専門医を紹介するネットワークを持つなど、できることはある」と田中准教授は話す。
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