2009/07/03
職場で、うつ病など心の病を患う人が増えている。それを理由とした労災認定数が昨年は過去最高になった。「社内の心の病は増加傾向」と回答した企業が六割に上るとの調査もある。過労やストレスが主な原因といわれるが、職場の現状は-。 (鈴木久美子)
東京都内のデザイン制作会社員で、印刷物のレイアウトなどを行うDTPオペレーターだった女性(38)がうつ病と診断されたのは、入社後四年目の二〇〇四年末だった。
社員十二人ほどの零細企業で、当初は同僚と二人で仕事を分担していたが、同僚が体調を崩し退職後は、補充のないまま一人でこなすことになった。「グループ長」の肩書がつき、制作作業以外に営業なども任されたが、「名ばかり管理職」で部下も昇給もなかった。
ほかの部署は社員が複数いて新機器も導入されたが、女性にはない。職場の雰囲気は悪くなかったが、相談できる相手はいなかった。会社の業績はふるわず三年目にボーナスがなくなった。
体のだるさが抜けなくなった直後、大口の仕事が入り、一人で土日も出勤する日が約一カ月続いた。無事に納品したが、朝起きられなくなり、いらいらし、仕事も趣味もやる気がなくなった。ある晩、帰宅した自宅玄関で座り込み動けなくなった。結局、うつ病診断から二カ月後に退職した。
強いストレスは、うつ病の原因となる。厚生労働省の調査(〇七年)では、労働者の58%が強い不安やストレスを抱える。ストレスの原因(複数回答)は(1)職場の人間関係(38%)(2)仕事の質(35%)(3)仕事の量(31%)がトップ3だ=グラフ。日本生産性本部メンタル・ヘルス研究所の昨年の調査では、企業二百六十九社のうち56%が、この三年間で「心の病が増加傾向」と回答した。
「人員削減などで残った社員に過剰な労働が押しつけられ、うつ病を増やしている」と日本産業カウンセラー協会の原康長事務局長は言う。
「同時に、一九九〇年代から導入された成果主義の考え方により、社員同士が競争をあおられ孤立している」
その結果、人間関係は希薄化した。NPO法人「労働相談センター」(東京)に昨年寄せられた職場の相談のうち「いじめやいやがらせ」の割合は、〇三年の三倍に上る。
「平手打ちや顔にボールペンを投げつけられる。一人に仕事を押しつけられたり、逆にまったく無視される。職場の連帯感もないので声もあがらない」と同センター相談員の須田光照さんは話す。
一方、「本人の人格の未熟に伴う適応障害によるうつ病が二、三十代を中心に増えている」と筑波大大学院の松崎一葉教授(産業精神医学)は指摘する。
団体職員の田村幸二さん(41)は、三十代半ばでうつ病と診断された。事務職だったが、「やってることに価値を見いだせなくなった」。競争が嫌いで、いかに他企業に先んじて契約を結ぶかに必死な仕事相手の中小企業経営者の話についていけなくなった。
レベルアップを求められたパソコン技術も苦手で苦しかった。ほかに自信を持ってできる仕事もなく、辞めることもできない。落ち込みが続き、うつ病と診断されて一年二カ月間休職。復職し、病気の体験を著書にもしたが、仕事への考え方は根本的に変わらず、再発して再休職した。
「幼稚で甘えてると思うが、どうしようもなくつらい」。生活のためには仕方ないと今月、短時間のならし出勤を始めた。
「薬を飲めば症状にいったんはふたをできるが、病気の原因に対処できなければ根本的な解決にはならない。患者本人の治療と同時に、職場の環境を改善しなければ、再発を防ぐことはできない」と松崎教授は話す。
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