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【暮らし】<働く>障害者雇用 不況のしわ寄せ 解雇急増 失業の健常者と求人めぐり競争 再就職困難に

2009/06/25

 障害者を取り巻く雇用環境が不況で悪化している。一般企業での解雇者数は急増し、授産施設での工賃も減少。健常者との競争を強いられるようになり、一般企業への就職も難しくなっている。障害者の声は伝わりにくく、「統計に表れる以上に厳しい」との指摘もある。 (佐橋大)

 愛知県東海市のユニクロ東海店。知的障害のある星野幸正さん(31)が、開店前のがらんとした駐車場を黙々と掃除していた。

 週五日の八時間勤務。主な仕事は、店内外の掃除と、店に配送された商品を段ボール箱から取り出す作業など。商品の回転がいい店だけに、それだけでもかなりの仕事量だ。桑原崇代店長は「作業は早いし、まじめ。貴重な戦力です」と星野さんの仕事ぶりを評価する。店では、作業の順序が急に変わることには戸惑う星野さんが動揺しないよう、仕事内容の伝達などには気を配っている。

 ユニクロの昨年の障害者雇用率は8・06%。法定雇用率の1・8%を大きく上回る。ユニクロを展開するファーストリテイリングの担当者は「障害のある人が同じ職場にいることで、さまざまな立場の人に配慮する意識が職場に浸透している。接客にプラスになっている」と話す。

 同社は、障害者と一緒に働く成功例を社内の研修会で示し、障害者の働きやすい職場づくりに力を入れている。

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 しかし、ユニクロのように積極的に障害者を雇用している企業は少数派。民間企業の雇用率はここ数年増加傾向にあったが、法定雇用率を達成しているのは昨年六月で44・9%にとどまっている。

 主に精神障害者の就労を支援する名古屋市の「なごや障害者就業・生活支援センター」によると、不況の影響で四月以降、障害者の就労にはかげりが見えるという。

 清掃や工場での簡単な作業など週二十時間未満の短時間労働の求人は、これまで障害者の雇用の受け皿になっていた。しかし、不況で派遣切りされた健常者が多数応募するようになり、障害者の新たな就労が難しくなっている。

 名古屋市内の自動車関連の町工場で三年前から働いていた同市中川区の知的障害の男性(49)は先月、解雇を告げられた。週五日だった勤務日が二月から三日、二日と減り、自宅待機を経ての解雇通告。男性は、やむを得ず食用廃油を原料にせっけんを製造販売する同市中川区の授産施設「つゆはし作業所」で製品の袋詰めなどをすることになったが、給料は一カ月一万五千円。十万円以上はあったこれまでとは比べものにならない。同作業所の小野勝幸所長は「男性の勤めていた会社は、とても障害者のことを考えてくれていた。そこですら解雇せざるをえない。厳しい状況だ」と話す。

 障害者の解雇は昨年十月以降、高水準で推移。厚生労働省の調べでは、昨年度下半期(十月~三月)の解雇者数は、千九百八十七人で前年度同期比154%増=同(下)。四月以降もペースは落ちていない。

 解雇された人の頼みの綱の福祉的就労の場も厳しい。厚労省の調査では、障害者が働く授産施設や福祉工場の今年一月の売上高は平均三百五十万円と、昨年十月に比べ26・7%減った。工賃も減少している。男性が働き始めたつゆはし作業所でも「スーパーの安売り製品との競争などで、せっけんの売れ行きが悪くなった」と職員が在庫の山を指さす。

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 「働く障害者の弁護団」(東京)代表の清水建夫弁護士は「強引に自己都合での退職に追い込まれた人もいる。これは解雇に含まれない。また、障害者はパートなどの非正規雇用で働く人が多く、契約期間満了による雇い止めも、解雇に含めていない可能性もある。『障害者雇用は経済的負担』という考えの障害者雇用促進法を改め、不当な解雇はおかしいと障害者が声を出せる環境を整えるべきだ」と話す。