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【暮らし】<働く>ユニーク社内制度  飲み会費は会社負担

2009/06/11

 世界的不況で経営が悪化した企業も多く、職場の士気も低下しがちだ。そんななか、社員同士の交流を勧めるユニークな社内制度が注目を集めている。社内の風通しがよくなり、業績アップの効果も期待できるという。 (服部利崇)

 「カンパーイ」。仕事帰りの二十~三十代の十人ほどが、東京・池袋の居酒屋で和気あいあいと盛り上がる。その“財布”はなんと会社持ちだ。

 ソフトウエア請負開発業「慶」(本社東京都豊島区)は二年前から、従業員を家族に擬した「ファミリー制度」を導入。“家族”イベントには一人月五千円まで会社が負担する。この日は、複数ファミリーの合同飲み会だった。

 同社の従業員三十五人のうち役員などを除く二十五人が、普段仕事で一緒にならない組み合わせで六つの家族に分けられている。性別や年齢、非正規などの雇用形態に関係なく、面倒見がいい人物を会社が“家長”に指名。飲み会などで家長を中心に家族同士で仕事やプライベートの相談をして交流を深める狙いだ。

 仕事の性質上、従業員のほとんどは顧客企業に常駐。全員が顔を合わせるのは月一度の帰社日だけだ。蒲生嘉達社長は「社員間のコミュニケーションが取りにくいのが悩みだった。制度が社の活性化につながった」と自賛。家長からアドバイスを受ける木津谷香織さん(27)は「社員同士が親密な関係になった。仕事も教えてもらい、働きやすい職場になった」と感謝する。

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 最近の不況で職場のギスギス感が増しているという。経営コンサルタントの大塚寿さんは「賃金上昇で抑えられていた会社への不満が、成長のストップで表に出てきた」と指摘。成果主義や業務の専門化も進んで「みんな自分の仕事で手いっぱい。社員同士のやりとりもメール中心で会話も減っている。若手は指導が受けられず、職場に居場所がないと感じている」と職場環境の悪化を懸念する。

 実際、若者の離職率は高い。厚生労働省の二〇〇七年雇用動向調査では三十歳未満労働者の離職率は25・5%。全労働者15・4%より10ポイントも高い。昨年十月の毎日コミュニケーションズの調査では、入社二~五年目の若手社員の56・2%が愛社精神が「ない」と回答している。

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 企業も社員のつなぎ留めに必死だ。業務システム開発業「インフィニット・フィールド」(本社東京都荒川区)は〇二年の創立以来、年四回、全社員のお誕生日会を開いている。誕生日の社員には、全社員が寄せ書きしたカードが贈られる。

 入社二年目の早崎徹さん(26)は「もらうのは恥ずかしかったが、みんなとの距離が縮まり、会社の一員という意識が高まった」。山本豊社長は「社員二十人全員が同じ方向を向けば、コミュニケーションが密になり、社員に伝えたいことがすぐ浸透する」と業務の効率化も指摘する。

 人材紹介業「リクルートエージェント」(本社東京都千代田区)には「Goal In Bonus(GIB)制度」がある。

 会社が通期ですべての業績目標を達成した場合、対象者全員に年間最大二十五万円のボーナスが出るが、全額支給されるには「九月末までに社員四人以上のグループで一泊以上の旅行に行く」ことが条件。行かない人は半額支給に減らされる。社員の結束力を高める工夫で、城さやかさん(27)は「普段は接触の少ない部署のメンバーと旅行に行くことになるので、社内の知り合いも増えた」と話す。

 大塚さんも社内活性化策として、社員同士の交流を活性化させる社内制度の設置を勧める。「会社への帰属意識が薄れるなか、会社が経費をかけても『チームの一員と確認し合える』行事の重要性は増している。社員同士が親しくなって、得意分野や趣味も分かってくると、社業にも生きてくる。飲み会助成や誕生日会なら、大して費用もかからず、お手軽な制度だ」

誕生日を迎えた社員に送られる寄せ書きのカード。「気持ちが伝わる」と好評だ=東京都荒川区のインフィニット・フィールドで
誕生日を迎えた社員に送られる寄せ書きのカード。「気持ちが伝わる」と好評だ=東京都荒川区のインフィニット・フィールドで