2009/06/04
危険作業に緊張連続
西尾市平坂町は鋳物のまち。鋳造に適した粘り気のある砂が採れるため、江戸時代に始まり、かつては丸形郵便ポストも造っていた。ただし、その工場は「きつい」などの頭文字を取った3K職場。アルミニウムの鋳物を作っているマル天鋳造所で製造工程を体験させてもらった。
「表札を作ってみましょう」。同社の跡継ぎ、新実善明さん(34)があらかじめ、名字の浮き上がった樹脂木ブロックを用意してくれた。
工場内に足を踏み入れると、騒々しい機械音と熱気に迎えられた。暑い。アルミを溶かす溶解炉が高熱を発している。熱で黒く焼けた砂から、固まりやすくするための薬剤のにおいが漂う。
最初に鋳型作りに挑戦。縦、横、高さが二十五-三十五センチの木枠の中央にブロックを置き、機械から排出される砂を詰めていく。「しっかり押さえ付けるように、砂を固めて」と新実さん。黒い砂が汗ばんだ腕にべっとりまとわり付いた。
五分ほどで砂が固まると、鋳型が完成。重さは十キロ近くありそうだ。ふだんカメラより重い物を持ち歩かない身にとっては、運ぶのもきつい。「ここで砂が崩れたら、これまでの作業が無駄になる」。ブロックを慎重に抜き取る。
いよいよ溶けたアルミを、砂でできた鋳型に注ぐ作業。ひしゃくのような金属製の道具で、溶解炉からマグマのようなアルミをすくい取る。温度は七五〇度。緊張のせいか、冷や汗も混じってきた。
十分ほどでアルミが固まってきたら、ハンマーで鋳型を割る。何だかもったいないような気分。砕けた砂から、銀色に輝くアルミ製の表札が姿を現した。うれしさに思わず手に取ろうとすると、新実さんが「危ない」と慌てて制止。軍手をはめていても大やけどするそうだ。
最後は仕上げ作業に挑戦。余分な部分を機械で切断する危険な作業は、熟練の従業員に任せ、冷めた表札を電動の紙やすりで磨く。縦八センチ、横十五センチほどの表札が完成した。
出来栄えに満足。それにしても汗をかいた。三河の自動車産業などを支える現場の苦労と気概を垣間見た気がした。(広中康晴)
【メモ】マル天鋳造所では、鋳造や仕上げなどの作業を分担。作業時間は午前8時から午後5時まで。月平均21日の勤務で、初任給は約20万円。鋳物技能検定などの資格があれば給与面で優遇されるが、特別な技術は必要としない。
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