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【暮らし】“進化”する短時間正社員 パートまで適用拡大 『高コスト』が普及の壁

2009/06/04

 雇用不安が続くなか、正社員でありながら勤務時間が通常より短い「短時間正社員制度」への期待が高まっている。正社員を対象に育児・介護を理由に利用できる制度として広がってきたが、最近は、優秀なパートを短い労働時間のまま正社員に登用する制度へと“進化”している。 (服部利崇)

 総合小売業「東急ストア」(本社東京都目黒区)は昨年三月、パートが短い勤務時間のまま正社員になれる制度を整えた。

 毎年全店のパート約八千人のうち25%が入れ替わっているという同社。伊藤隆人事部長は「多様な働き方が可能な制度を整えれば、優秀なパートも残ってくれて、新卒社員の応募も増えると思った」と導入の狙いを語る。

 パート当時の労働時間のまま働く正社員は現在三人。伊藤部長は「子どもが中学生になればフルで働くと言う人もいる。その人の生活にマッチした働き方を提供できた」と自賛する。

 厚生労働省は、短時間正社員制度を(1)無期限雇用(2)時間当たり基本給など待遇面や仕事内容がフルタイム正社員と同等-と定義する。十年ほど前から、正社員の雇用を守るワークシェアリングの一手段として始まり、最近は、パートの離職率が高い業種で、適用範囲をパートまで広げるパターンが増えている。

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 洋菓子製造販売「モロゾフ」(本社神戸市)にも短時間正社員「ショートタイム(ST)社員」制度が導入されている。

 本社で売掛金管理を担当するST社員宮本美枝子さん(49)の勤務時間はパート時代と同じ、午前九時から午後四時まで。勤務後は義父の病院通いに同行し、家事にいそしむ。「この生活リズムは崩せない。フルタイムでしか正社員になれないなら、パートのままでいた」と打ち明ける。

 同社には、ST社員とフルタイム社員の相互転換制度もあり、パートに管理職の道も開けている。水垂(みずたれ)智子さん(33)は、パートからST社員を経てフルタイム社員になった一期生で、「出産・育児で会社を辞めずに済む」と制度に感謝する。

 企業向けソフトウエア開発「サイボウズ」(本社東京都文京区)は、正社員が短時間とフルタイムを何度も行き来できる選択型人事制度を取り入れている。短時間正社員の適用対象を育児と介護に限定する企業が多いなか、理由不問が特徴だ。山田理副社長は「ワークライフバランス(WLB)推進が目的。自己啓発やボランティア、趣味でも取得できる」とPRする。

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 厚労省はWLB推進などを狙い、短時間正社員制度を導入した企業に助成金を支給しているが、同省の昨年七月のアンケート(約二千八百社対象)では、導入企業は二割と少数派だった。うちパートの正社員登用や理由不問など“先進的”な内容となると、8%にとどまった。

 普及のネックになっているのはコスト。東急ストアによると、パートを正社員にすると人件費などで一人年間約百万円余分にかかる。この不況下、導入に二の足を踏む企業が多いことについて、同社労務・厚生課の羽山裕二課長は「低賃金でもパートが集められる企業にとって、高コストと感じるだろう」と指摘する。

 しかし、学習院大経済学部の脇坂明教授(労働経済学)は、企業の生き残りのために、優秀な人材を確保できる短時間正社員制度の導入を勧める。

 「人口減少社会にむけ、高い技能をもつ女性らの処遇を正社員並みにしていかないと、優秀な人材が集まらず、企業間競争に敗れる。安定した身分で活用することで他パートのモチベーションも上がる。一方でWLBを大切にする労働者には、業務以外で培ったものを仕事に生かしてもらえば業績向上も期待できる」