2009/05/25
情報技術(IT)を取り入れた農業を研究している豊橋技術科学大(豊橋市天伯町)の「先端農業・バイオリサーチセンター」。2006年の設立以来、地域へ技術を根付かせようと、農家への講座など積極的な活動を展開している。高齢化などで1980年代には600億円以上あった同市の農業産出額は年々減り、今は400億円台に。同大の技術は豊橋の農業を復活させることができるのだろうか。
IT農業は、土壌の養分や日光量、実った作物の栄養素などをセンサーで測り数値で表示することで、ハウス管理や収穫時期の見極めなどを簡単にするもの。三枝正彦・同センター特任教授(65)は「長年の経験や勘に頼らないため、農業を始めたばかりの若い人でも成果が出せる」と有用性を訴える。
豊橋市東七根町のビニールハウスでランを作る伊藤正規さん(60)は2002年、いち早くIT農業を導入した一人。ハウス内には250万円かけて設置した温度、湿度、日光量を測る多くのセンサーとコンピューターがあり、インターネットを通して1キロ離れた自宅のパソコンからハウスの天窓や暖房を操作する。「品質管理はこれまでの6年間のデータが頼り」と話す。
ただ進んだIT農業を始めている農家はまだごく一部。センサーでハウスの温度管理など初歩的なITはあっても、温度や湿度、風通しなどを自動的に制御する技術を利用する農家はほとんどない。高度な技術が難解で、設備投資も多額になるのが足かせだ。
こうした問題をクリアしようと、大学が昨年12月に開講したのが「IT食農先導士育成プログラム」だ。農家や新たに農業を志す人を対象に、生産技術や経営への知識を2年間にわたって指導している。卒業生には大学から技術提供を受けながら農業に従事してもらう一方、「地域リーダー」としてほかの農家に助言や指導をしてもらうのも大きな狙いだ。
現在、東三河から農家以外にも会社員、主婦、学生ら23歳から68歳までの人たちが学び、今後は農業現場での実習もある。
設備投資面でも、学内の新技術研究者には費用が少なくてすむ農業用品の開発を求める一方、日本の大学で唯一所持している半導体工場を利用し、将来的には同工場で製造したセンサーを各農家に提供することも計画している。
三枝教授は「5年で100人の先導士が生まれれば、東三河の農業現場に散らばる。技術だけではなくマーケティングなど販売戦略まで、農業の高度なIT化が進むだろう」と話している。
(井口健太)
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