2009/05/07
展示は巨大なパズル
記者という仕事がら、絵画や写真、書などさまざまな展覧会を取材する機会が多い。展示する側にはどんな苦労があるのかが知りたくなって、豊橋市駅前大通の「朝日画廊」を訪ねた。
主人の久保田達郎さん(61)=豊橋市東田町=は、父親が一九七二(昭和四十七)年に始めた朝日画廊を二十三年前に継いだ。所有する絵画を展示する一方、年間を通じた企画展も開いている。
記者は翌日から始まる日本画グループの企画展の展示作業を体験することに。何も飾られていない三十平方メートルの画廊は、白い壁がキャンバスのようだ。
八人の作家による二十五枚の絵を展示台の上に無造作に並べ、じっと腕を組んで見つめる久保田さん。「配置を考えているんです」
画廊や美術館の展示作業には多くのルールがあり、例えば「最も価値のある作品は店の壁の中央にかける」ことが決まっているという。「時には展示位置をめぐって作家同士が争うこともありますよ」
記者は画廊の角に人物画を飾るよう提案したが「描かれた人物が壁の方を向いちゃう。お客さんにそっぽを向いているみたい」と却下。並び替えると今度は「二人の作家の、同じような作風の絵が並んでしまう」と再び却下。制限の多さに行き詰まってしまった。
見ているだけでは実際の展示状態が分からず、大きな額縁を抱えて画廊内を行ったり来たり。まるで巨大なパズルに挑んでいるようだ。なんとか配置が決まると、傾きや作品と作品の間隔に気をつけながら展示していく。
画廊の仕事は展示作業のほかにも、作家を訪ねて絵を描いてもらうことや新しい企画を考えることなど多様だが、共通するのは芸術を楽しんでもらいたいという姿勢。「絵を売るのは難しい不景気なご時世。展示会では、お客さんの心にゆとりを与えるために気を使うんです」と久保田さん。
その思いを知ってか知らずか、翌日の企画展初日には多くの人が訪れ、笑顔で作品を鑑賞していた。自分も少しは役に立った気がした。(井口健太)
【メモ】売れた絵の価格の2-4割が収入。規模により収入は変化する。仕事は午前10時-午後7時。週休1日。美大卒業の学歴や芸術への知識はあればいいが、「お客さんと同じく、素人の視点から絵を選ぶことも大事」と久保田さん。
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