2008/08/03
会社の都合で賃金操作 基本給から30時間分削る
未払い残業代をめぐり企業への是正勧告が増えている。未払い分百万円以上を支払った二〇〇六年度の企業数は過去最高の千六百七十九社。人件費を抑えるため割り増しになる残業代を出し渋る企業に対し、憤った労働者が立ち上がっている。 (服部利崇)
「人件費を抑えたい。アルバイトが働く時間を減らしてくれないか」
二年前、本部から来た総支配人が、コックの涌井好昭さん(47)にこう切り出した。アルバイトの分は「おまえが働け」という意味だった。
都内に展開する会員制パブレストラン「うすけぼー」で働く涌井さんの役職は調理場責任者「チーフ」。管理監督者扱いで、残業は月六十-百十時間に及んだが、残業代は出なかった。
「アルバイトの出勤を遅らせ、自分が代わりに早出すれば会社の負担は増えない」。この月は二十五日で二百八十五時間働き、残業は百十四時間にも上った。涌井さんに出退勤の自由はなく、使用者と一体的な立場にもない。「名ばかり管理職ではないか」と労基署に申告。今年五月、労基署は管理監督者に当たらないと判断し、未払い残業代を払うよう是正勧告した。
涌井さんの計算では過去二年間の未払い残業代は約六百万円。一方会社側の提示は五分の一の約百二十万円。「月三十時間分の残業代をあらかじめ給与に組み込んだ計算」と説明された。
涌井さんは「基本給を削った分を三十時間の残業代に充てた『固定残業代』という手口」と憤る。
涌井さんを支援する東京東部労働組合は「一方的な労働条件の不利益変更」と抗議したが、会社側はさらに、固定残業代を四十時間分に拡大した新賃金制度の導入も申し入れてきた。
この制度では、残業代の算出基準になる時間単価(時給)は、固定残業代がない場合と比べ三百円以上下がる。会社側は「基本給から固定残業代を引いて、時間単価を計算しても構わない」(厚生労働省労働基準局)規定を利用しているのだ。
会社側は「是正勧告を真摯(しんし)に受け止め、残業代は支払う。今話し合い中」としている。
◆
「時間外でも、深夜でも変わらず時給千円で働かされた。六人の子どものために月四十万円稼ぐのはきつかった」
都内に本社のある警備会社の契約社員だった渡辺勇造さん(59)は、残業割り増しがなかったことに今も納得いかない。
主に工事現場の出入者管理を担当。多い月は四百時間以上働いた。連続五十四時間勤務した時は床に段ボールを敷いて仮眠した。
仕事を回してもらえなくなり、組合を結成。二年分の未払い残業代約二百七万円の支払いを要求した。会社側は「実労働時間ではない休憩・仮眠時間に払っていた時給で、残業代は相殺される」と主張、未払い分は約二万円と計算した。渡辺さんは「休憩や仮眠中でも仕事を頼まれれば断れない。実態は待機時間」と譲らず、今も団交継続中だ。
「会社は賃金計算を都合のいいようにしてくる。文句を言うと仕事を干され、生活は行き詰まる」。当初一年更新だった契約期間も最後は三カ月間に。その期間が満了した昨年八月、雇い止めとなった。現在は別の警備会社で働いている。 =次回は七日掲載
割増賃金 一日八時間、週四十時間の法定労働時間(例外業種あり)を超えて働くと、時間単価の二割五分以上の時間外割増賃金を受け取れる。法定休日に働くと、一日当たりの所定賃金の三割五分以上の割増賃金になる。午後十時から翌日午前五時までは深夜手当として二割五分増しとなる。ただし、労働者代表と使用者側の協議で法定労働時間を超える勤務を定めた労働基準法三六条に基づく「三六協定」を結ばずに時間外・休日労働をさせると同法違反となる。管理監督者でも深夜手当は受け取れる。
転職・求人情報検索(名古屋市・愛知県・岐阜県・三重県)はトップから