2009/04/20
深刻な不況で一部休業せざるを得なくなった事業者に、国が休業手当や休業時の教育訓練費用の一部を補助する「雇用調整助成金」と「中小企業緊急雇用安定助成金」。申請件数は愛知が全国最多で長野が4位、岐阜が6位(2月末現在)と、中部地方が突出しているが、助成金を前向きにとらえようとする中小企業オーナーたちも多い。
がらんとした空間にぽつんと置かれた卓球台とわずかな資材。愛知県甚目寺町の機械製造「信濃工業」が昨年11月に建てた作業場は、今も使われないままだ。着工した夏ごろに最盛期だった受注量は完成時には7割減となっていた。
「正直、助成金をもらうくらいなら会社を閉めたほうがよいと思っていた」と江尻富吉社長(61)。昨年末の賞与はゼロ。あとは内部留保を使い、社員と痛みを分かちながら乗り切るつもりだった。だが、社員の妻から直接、将来への不安を聞いた。「社員や家族をそこまで苦しめていいのか」。1月下旬、中小企業緊急雇用安定助成金の申請を決意。昨年11月末から続いていた月11日間の休業補償に充てている。
ただ、休業は社員の生活スタイルにも影響していた。昼から酒を飲んだり、パチンコ店に入り浸ったり…。助成金を得て、若手社員を教育訓練として取引先に送り、地域の清掃ボランティアに参加させるなどして、やる気をつなぎ留める。
今年いっぱいを持ちこたえれば、チャンスがあるとみる江尻社長。「その時のために若手をどう育てておくか。この不況があったからこそ、3年、5年先を考える必要性を強く感じた」
トヨタ自動車の二次下請けのプラスチック成形会社「オプコ」(名古屋市北区)の尾崎浩一社長(45)は「収支だけを見て人を切ることはできない」と話す。同社も景気が悪化した今年に入って新工場が愛知県小牧市に完成した。在庫を持たないトヨタのカンバン方式に従っていたため、親会社の減産計画が経営悪化に直結。「忙しさに甘え、自社開発や他メーカーとの関係を強化するなど自助努力を怠った結果かもしれない」と自問し、教育訓練に助成金を活用するつもりだ。
「まず雇用を守り、仕事がない時期はしっかり教育しておかなければ」と尾崎社長。今を、来るべき明るい日へのステップにしたいと考えている。
【中小企業緊急雇用安定助成金・雇用調整助成金】 中小企業緊急雇用安定助成金は中小企業を対象に昨年12月に創設。従業員に支払った休業補償や教育訓練、出向にかかる費用の5分の4を補助。中小企業以外も対象の雇用調整助成金は同月に要件緩和し、3分の2を補助する。トヨタ自動車関連ではデンソーやアイシン精機なども申請している。いずれの助成も休業などの実施計画の提出が必要。
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