2009/04/01
『癒やし』の裏 フル回転
熱い湯に体を浸し、ふーっと息をつく瞬間のあの幸せ。日々の憂さまでじんわり解かしてくれる温泉なら、きっと仕事も癒やし系に違いない-。軽はずみな思い込みから、東栄町のとうえい温泉で一日働かせてもらった。
開店三時間前の午前七時。背丈よりも大きなタンクが立ち並び、その間に何本もの配管が張り巡らされた機械室の床掃除から、この日は始まった。「このタンクでお湯をろ過し、浴場に注いでいます」とサブマネジャーの辻克比古さん(29)。タンク一つ一つが野天風呂や歩行湯などの浴槽に対応している。
掃除の後、辻さんは浴場から湯を小さなボトルに入れ、機械室に戻った。それぞれのボトルに試薬を流し込んで振る。と、濃さの違うピンクに色づいた。浴槽ごとの塩素濃度を調べたのだ。辻さんは数値を記録し、ボタンやレバーの並んだ操作盤のあちこちを素早く動かした。「『自動』は一定時間塩素が出て止まります。『手動』だと塩素が出続けて…」。癒やされるどころか、頭がこんがらがってきた。「オープン当時は誰も分からなかった。一つ一つ覚えました」と辻さんが笑う。
その後、源泉をチェックし廊下と玄関を掃除。窓をふき、外の用水路のごみを拾った。午前十時。最初の客を玄関で出迎えたのもつかの間、トイレや脱衣場、浴場の掃除、塩素の検査と操作盤の調節が続いた。機械室で給排水の調節をしていると突然、「自販機でトラブルがあったみたい」。無線に答え、辻さんは直ちに現場へ向かった。
塩素の調節は二時間ごと。掃除や客への応対をこなしながら、機械室に出入りしては操作を繰り返す。「油断すると間違えます。慣れが一番怖い」
小さなミスが多くの客に影響する緊張感とは裏腹に、辻さんたちが客と和やかに談笑しているのを何度も見かけた。脱衣場で掃除中、常連客が記者に「新人さん?」。施設への信頼を感じ、うれしくなった。
仕事を終えて野天風呂に体を沈めた。掃除、機械の操作、接客。「癒やし」のために冷静な頭と温かい心でせわしなく動き回る辻さんたちの姿を思った。(日下部弘太)
【メモ】「お客さんに何を与えられるかに楽しみを見つけられる人が向いている」と山本誠マネジャー。とうえい温泉は週休2日で月給は「町役場に準ずる」。現在、従業員募集はしていないが「よほど優秀な人なら」と山本さん。
転職・求人情報検索(名古屋市・愛知県・岐阜県・三重県)はトップから