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【雇用崩壊】「春闘」の陰で ~正規と非正規と<中> 派遣社員の憤り

2009/03/12

◆熟練も解雇『団結』は幻

 「あと少し頑張れば、正社員になれると思っていたのに。派遣社員と正社員には深い溝があったんだな」。昨年12月に派遣切りに遭った名古屋市在住の男性(43)は、大きくため息をついた。

 東海地方の大手メーカーの工場で、請負社員時代も含め、6年以上同じ部署で働き、職場の非正規労働者で最古参だった。

 「苦しい時期をみんなで乗り切ろう」。これを合言葉に、正規・非正規にかかわらず工場の中心メンバーが集まって、不況に立ち向かうことで一致団結した。その自分が解雇通知を受けたのは、翌日のことだった。

 全身汚れる塗装や清掃、危険を伴う作業は決まって派遣の仕事だったとこの男性。何か文句を言ったり、失敗があれば「塗装に回すぞ」と正社員から声が飛ぶこともあったという。

 100年に1度といわれる危機的な経済状況でも、春闘で賃上げ要求を続ける大企業の労働組合に、男性は「派遣労働者を無条件で切っておきながら、ベアだなんてよく言える」。笑いの中に怒気が交じる。

 正社員や子会社の新入社員を指導するほど熟練しても、上がった時給は6年で20円だけ。「おれのほうがずっと会社に貢献している」との自負がある。正社員とは分かり合えることはないと吐き捨てるように言った。

 空冷機械メーカーの工場で13年間、勤務した男性(52)=名古屋市在住=は「派遣や請負の賃金は削るだけ削る。給料アップを申し出ることなんて無理」と漏らす。派遣先企業は「代わりの人間はいくらでもいる」と言い放った。だから、たとえ給料をカットされても文句を言えば解雇につながるのでは、との不安にとらわれた。

 「仕事は、派遣が若い正社員に教えるものだった」

 そう語るように、職場の非正規労働者の3分の2以上は3年以上働くベテラン。現場を支えてきたにもかかわらず「来月で終わりだ」といわれて解雇の憂き目に。派遣先企業との団体交渉の希望すらかなっていない。

 非正規労働者から相談を受け、派遣会社などと団体交渉を行っている労働組合「管理職ユニオン・東海」(名古屋市)。平良博幸書記長(48)は「非正規労働者にとって、企業内の労組も経営側も同じ“搾取する側”」と指摘する。

 いくら頑張っても、利益は企業のもの、正社員にしか反映されない-。こんな思いが募る非正規労働者の目には、春闘はただ身内で話し合いをする“行事”にしか映らない。

弁護士会や労組などが取り組む非正規労働者支援の電話相談窓口には、悲痛な声が届く=2月27日、愛知県豊田市で
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