中日新聞CHUNICHI WEB

就職・転職ニュース

  • 無料会員登録
  • マイページ

やってみました 記者たちの職業体験ルポ 三味線奏者

2009/03/04

『弦に当てる』第一歩

 音楽を聴くのは好きだが、歌うのは苦手だ。ギターをかっこよく弾きたいと思い、中学時代に挑戦したが、挫折。「弦が三本の三味線ならできるかも」と師匠に弟子入りした。
 指導していただいたのは、二代目西守芳泉(本名・村松典子)さん(48)=豊田市汐見町。高校三年生の時に、三味線関連の新聞の記事を読んで三味線を始め、この道三十年。自宅で芳泉会の会員を指導するほか、小学校などでも民謡を教えている。

 「とにかく力を抜くことが大事」と助言を受け、三味線を持った。バチを弦に当てることが第一歩だという。

 言われたように弦を押さえずに、バチで弦をたたいてみる。

 「ヴィッ、ヴィロン♪」

 澄んだ師匠の音色とは全く違う音が鳴り響いた。近づけようとすればするほど肩や腕に力が入り、うまくいかない。

 「とりあえず、曲を弾いてみましょう」と西守さん。童謡「さくら」に挑戦。ギターと違って、三味線には音階を決めるフレットがない。初心者用には弦を押さえる場所が一応示してあるが、正しい音かどうかは自分の耳次第だ。師匠の言う通りに弦を押さえる。リズムは別にして、なんとか第一小節が弾けた。

 正座で演奏するため足がしびれ、額にうっすらと汗がにじむ。手の動きよりも足に気がいってしまう。見かねた師匠から、いすに座って演奏することの許可を得た。西守さんによると、現在は子どもを教える時は正座ではなく、いすに座って演奏させているという。

 神経を手の動きに集中できる分、少しだけ弾けるようになった。しかし、違う弦をたたこうとすると、どうしても演奏が止まる。「まず、弦に当たること」が頭をよぎった。左手で弦を押さえ右手でたたくのだが、同時に両方を意識するのが難しい。

 悪戦苦闘すること、小一時間。ようやく一番を通して演奏できた。師匠からは「これだけの時間では、なかなかできない」とお褒めの言葉をいただいた。

 指導方針は「楽しく」。一日だけの体験だが、三味線を身近に感じることができた。(杉山直之)

 【メモ】各流派に所属し、稽古(けいこ)を重ねる。芸名を襲名する名取や、師範などの昇進は本人の努力次第。師範になると、弟子の指導などもできるようになる。教える人数と月謝によって、収入に幅がある。1回の指導料は2000-3000円。

楽しく、うまく演奏できるように指導する西守芳泉さん=豊田市汐見町で
楽しく、うまく演奏できるように指導する西守芳泉さん=豊田市汐見町で