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【くらし】地方回帰 移住は今/転職で「生活の質 向上」異動打診機に決意

2025/08/27

◆深夜帰宅から解放

 現役世代が地方への移住を実現する上で、ハードルとなるのが就労先の確保。生計を立てるのに企業への転職を希望する人が多く、人手不足に悩む企業と連携し、希望者の相談に応える地方自治体もある。移住と転職を同時にかなえ、ワークライフバランスを充実させる経験者に話を聞いた。 (有賀博幸)

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 毎朝、中央アルプス(長野県)の山並みを眺めながら愛犬と散歩し、午前7時過ぎに、車で20分の会社に出勤。通常、午後6時には帰宅する。2019年に長野県駒ケ根市に移住した倉本昌幸さん(54)の今の暮らしだ。「自分を整える時間があり、仕事でも心持ちの余裕が違う。生活の質は格段に上がった」と話す。

 移住前は、東京郊外の自宅から電車を2回乗り換え、1時間半かけて都心の照明器具メーカーの本社に通勤。残業はほぼ毎日で、平日に自分や家族の時間はなかった。

 小学生のころ家族で旅行した信州に魅せられ、アウトドアが好きなこともあり、移住への思いを温めてきた。約20年勤めた前の会社では30代半ばまで営業、その後、十数年、人事・採用部門を担当した。40代半ばで別の部署への異動を打診されたのを機に転職を決意。「またゼロからのスタートになるなら、別の会社で新たな仕事に就くのも同じ」と割り切った。

 現在勤務する駒ケ根市の「ナパック」は、長野県内唯一の粉末冶金(やきん)メーカー。地方移住の総合拠点「ふるさと回帰支援センター・東京」(東京都千代田区)で18年に開かれた同市の移住セミナーで初めて社名を知り、社風や独自の技術に魅力を感じた。転職当初の年収は100万円以上減ったが、昇給により現在は転職前とほぼ同水準に。同社で採用担当者として、自身の移住経験や社の魅力を伝えるとともに、若手の人材確保に向け、地域の企業でつくる組織の長も務める。

 家族にゆかりがある地へ転職、移住を決めた人も。昨年2月から同県飯田市の精密機器メーカー「多摩川精機」に勤める柴田一慶(かずよし)さん(43)は、東京の医療・介護サービス会社で14年勤め、人事を担当した。午後11時の帰宅が日常だった生活に疲れ、妻の実家がある飯田市のウェブサイトで同社の人事職種の募集を見つけた。

 将来的に神奈川県にある自身の実家との交通の便を考え、住まいを同市内で計画中のリニア中央新幹線長野県駅(仮称)付近に求め、ドッグランも備えた。「生活は百八十度変わった。今は妻と『お米も野菜もみんな地元産だね』などと言いながら、一緒に夕食を取っている」とほほ笑む。

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◆移住後の働き先希望「企業」が最多

 ふるさと回帰支援センターが24年に行った来場者へのアンケート(複数回答)では、移住後に希望する就労形態として「企業等への就労」を挙げる人が68・1%で最多。テレワークは10・7%、創業・起業は9・7%、農業は9・6%。

 移住者を増やすチャンスとみる長野県は自治体や関係団体だけでなく、県内の企業とも連携。7月中旬に同センターで開いた移住フェアには、企業50社が出展。昨年より20社多く、人手確保への関心が表れる。同県信州暮らし推進センター長の伊東笑子さんは「地方の人手不足もあり、企業の移住希望者に対する採用熱は高い。県内には知名度は低くても独自技術を持つ企業がいくつもあり、来場者に知ってもらういい機会」と捉える。

自社製品を前に転職後の仕事や生活について語る倉本昌幸さん=長野県駒ケ根市のナパックで
自社製品を前に転職後の仕事や生活について語る倉本昌幸さん=長野県駒ケ根市のナパックで