2025/06/13
法改正 制度周知など義務化
年間10万人を超える介護離職者を減らすため、4月の改正育児・介護休業法の施行で、相談窓口の設置などが企業に義務付けられた。介護休業や介護保険制度など社員への情報提供が不十分なことも離職につながっており、仕事と介護の両立に向け各社は対応に追われている。(五十住和樹)
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「帰省しての介護にはまとまった日数が必要で、年休や介護休暇だけでは不十分だった。(相談したことで)働きながら帰省しやすくなり、とても助かっている」。名古屋鉄道(名古屋市)の50代男性社員は、職場の労務担当者を通じて社内の相談窓口につながった感想をこう語った。
男性は名古屋で勤務しながら関東に住む高齢の両親の介護をしていたが、同社によると、2022年に「年休の範囲内では厳しい」と相談した。翌年1月、毎月最大8日の休日が取れる新制度を紹介され、現在も仕事と介護を両立しているという。人事担当者は「相談がなければ離職していたと考えられる」としている。
23年度の民間の調査によると、介護を始める前に勤務先から情報提供が「なかった」と答えた介護離職者は3割超いた=グラフ。改正法は企業に、相談窓口の設置▽研修の実施▽介護休業取得や介護両立支援制度利用促進方針の周知▽利用事例の収集・提供-の4項目いずれかの実施を義務化。従業員が両親などの介護に直面する前の早い段階(40歳前後)での情報提供を求めている。
同社は4月から、勤務制度などの相談を受けてきた従来の社内窓口に加え、看護師やケアマネジャーなど専門職による外部相談窓口も新設した。この窓口は、サービスを提供している会社に委託。家庭の問題を勤務先に知られることに抵抗がある人も、24時間いつでも気兼ねなく相談できるのが特長で、問題を1人で抱え込んだり対応策が見つかる前に離職したりする事例を減らせると期待する。
このほかにも法定の介護休業(対象家族1人につき通算で93日まで)の期間を5年に広げて1年間は月給の2分の1相当を支援金として支給。扶養する要介護者1人につき月3万円の手当支給も新設した。
同社は社員の半数超が50歳以上。24年度、介護を理由とした退職者は5人だったが「介護中と会社に告げていない人を含めると相当数いる」とみて、両立支援の必要性を強く感じ、独自の制度を構築したという。
企業支援ビジネスも
家庭の事情にどこまで踏み込んでいいのか悩む企業も多い中、法改正を機に企業の相談窓口を支援するビジネスも登場した。
静岡鉄道ウェルネス事業部(静岡市)は4月から、企業の人事・労務担当職員が自社の社員に制度の活用を勧め、離職防止の対応が適切にできるよう助言する事業を始めた。同部は介護保険の居宅介護支援(ケアマネジャー)事業所や有料ホームなどを運営しており、新事業では所属する23人のケアマネを活用。例えば、要介護者の状況に応じて月に何日くらい休めば仕事と両立できるかなど、具体的に答えるという。担当者は「社員に介護に理解がある会社とアピールする手助けになるのでは」と話す。
ケアマネを対象に介護離職の実態調査をした淑徳大の結城康博教授(55)は「相談窓口の設置は一定の効果があると思うが、育休のように『介護のため休んでいい』という社員の意識変革が大切。介護休業の期間も、最低でも半年に延ばすべきだ」と指摘している。
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