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【三重】四日市の病院、大学院在学中も給与 診療看護師育成へ「特待生」

2025/05/01

人手不足緩和に期待

 医師の仕事を一定程度担える「診療看護師」。昨年4月に始まった「医師の働き方改革」に伴い人手不足が深刻化する現場で戦力として期待されるが、まだまだ数は少ない。そうした中、三重県四日市市の四日市消化器病センターは独自の「特待生」制度を創設。資格取得を目指す看護師が大学院で学ぶ間も給与を支払うなど育成に乗り出した。地域医療の質を保つ地方発の試みとして注目される。(秋田耕平、写真も)

 40床を備える同センターは糖尿病や人工透析の患者が多く入院する民間病院。特待生は現在、4年目の水谷さん(25)と2年目の田中(23)の2人で、普段の業務に加え、手術の補助など医師に近い場で実践的な経験を積んでいる。田中さんは「エコー画像の見方を教わることもある」と話す。

 診療看護師は米国のナース・プラクティショナー(NP)の日本版。事前に決められた手順書に沿ってカテーテルの交換や薬物投与量の調整など21区分38の「特定行為」の全てができるほか、医師の指示に基づき、診断や薬の処方といった医師に限られた行為を除く広い範囲の「相対的医行為」をすることが可能だ。

 資格取得には5年以上の実務経験に加え、大学院で2年間の専門教育を受け、日本NP教育大学院協議会による試験に合格することが必要。2011年に最初の合格者が誕生したが、今年4月1日現在、全国で984人にとどまる。

 人材の争奪戦は激しく、石原知明院長(57)は「募集をしても集まりにくい」と明かす。そこで23年に創設したのが「特待生」制度だ。大学院在学中も基本給などを支給し、学費も貸し付ける内容。学費は診療看護師として同センターに4年間勤務すれば返済を免除する。石原院長は「地方の民間病院が自前で育成する取り組みはあまり聞かない」と話す。

 国内の医師数は年々増えているが、厚生労働省の統計によると三重県は22年、医療施設で働く人口10万人当たりの医師数が241・2人と全国平均の262・1人を下回る。昨春からの働き方改革で時間外労働が規制された影響もあり、医師の業務を他の医療職に移し、共有することは重要な課題だ。

 「高いスキルを身に付けて患者に寄り添いたい」と水谷さん。「長く働けるように」と特待生制度がある同センターを就職先に選んだ田中さんとともに「医師の負担を減らし、看護師ら一緒に働く人の役に立ちたい」と意気込む。石原院長は「医師に比べ、患者のそばにいる時間が長い看護師が幅広い医療行為をできれば、迅速な対応につながる」と意義を強調する。

    ◇

◆愛知の医科大 100人以上卒業
◆「医師の負担軽減 実感」

 2012年、中部初の養成コースを大学院に開設した愛知県豊明市の藤田医科大は、これまで100人以上を送り出した。「藤田診療看護師」の頭文字を取った同大病院のFNP室には現在、系列の2病院を合わせて43人が所属。患者への病態説明やカルテの入力、医師不在時の診療補助など業務は多様だ。同室長で、医師の稲葉一樹教授は「医師の負担軽減に結び付いている実感がある」と話す。

 ただ、人材が大都市圏に集中する傾向は強く、日本NP教育大学院協議会も地方にまで広がっていないことを認める。稲葉教授は、診療看護師が国家資格でなく、民間資格であることが理由の一つと指摘。へき地を含め医療機関側にも雇用するメリットが伝わりやすいよう、「法的な位置付けを整える必要がある」と訴える。

診療看護師を目指し業務に励む水谷さん(左)と田中さん=三重県四日市市の四日市消化器病センターで
診療看護師を目指し業務に励む水谷さん(左)と田中さん=三重県四日市市の四日市消化器病センターで