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【社会】「働くシニア」に期待 在職老齢年金制度見直し

2024/11/26

給付膨張 財政圧迫恐れ

 厚生労働省が在職老齢年金制度を見直し、年金を満額で受け取る高齢者を増やす背景には、少子化で人手不足が深刻化する中、働く意欲のあるシニア層への期待がある。企業側は一歩前進として歓迎するが、制度自体の撤廃を求める声は根強い。給付が膨らむことで年金財政を圧迫するとの懸念もある。

 ◇ ◇ ◇

 ■おかしな話

 「高齢者の就労を抑制する制度上の要因が是正される」。日本商工会議所の担当者は、一定の評価を示す。現行制度は高齢者の就労意欲と企業の人手不足の双方に負の影響を与えていると指摘し、将来的には制度を廃止するよう求めている。

 厚労省には多くの産業界から「人手不足は死活問題」とする意見が寄せられている。運転手の高齢化が進むタクシー業界からは、65歳になると年金が減額されないよう働く時間を調整する人が増えるとして「公共交通の供給に支障が出る恐れがある」との声も。製造業界には「熟練した技能を継承する観点でも高齢者の就労促進は大切」との意見がある。

 電気自動車への移行が課題となっている自動車業界は、ITに精通した人材の獲得競争が激しい。関東地方の自動車部品メーカー幹部も、ITスキルのある65歳以上の雇用に期待を寄せる。現行制度を「おかしな話だ」とした上で「10年早く議論しておくべきだった」と言う。

 ■「就業調整」

 総務省によると、2023年の就業者のうち、65歳以上は過去最多の914万人(13・5%)。高齢者の就業率は25・2%で、65~69歳に限れば52・0%を占める。一方、内閣府が23年に実施した意向調査で「年金が減らないよう就業時間を調整して働く」との回答は44・4%に上った。政府は9月に改定した高齢社会対策大綱で「社会の持続可能性を確保するためのあらゆる備えが急務」とし、65~69歳の就業率を29年に57%へ引き上げる目標を掲げた。

 厚労省によると、米国や英国、ドイツなど諸外国では年金の支給開始年齢以降に減額する仕組みはない。このため日本の制度は「異質」との意見も上がる。

 ■現役に負担

 在職老齢年金制度は1965年に導入された。それまでは在職中の高齢者に年金は支給されなかったが、高齢労働者は低賃金のことが多く、年金を2割減額して支給するようになった。その後、制度は変遷し、85年の改正では65歳以上は満額の年金を受け取れるようにしたが、2000年の改正で賃金と厚生年金の合計が「基準額」を上回った分の半額を減らす現行の仕組みになった。

 制度の根底には「収入の多い高齢者に年金制度の支え手に回ってもらいたい」との考えもある。今回の見直しで年金をカットする基準額を引き上げれば、それだけ高齢者への給付額は増える。

 20年の制度改正に向けた議論では「高所得の高齢者を優遇」「年金財政に悪影響」と批判が相次ぎ、65歳以上の基準額引き上げを見送った経緯がある。