2024/11/06
保育士1人が担当する園児の数を示す「配置基準」が4月に見直され、4、5歳児については76年ぶりに30人から25人に改善された。大きな原動力となったのが保護者や現場の保育士の声。ただ、現状ではまだまだ不十分だと、全国で拡充を求める署名活動が続く。 (加藤祥子)
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■ 園と学習会共催
10月上旬の午後7時。名古屋市千種区のきたちくさ保育園の一室に、仕事を終えた保護者や保育士が集まった。国や県、市に配置基準の改善などを求める署名活動に向けた学習会。活動の意義を多くの保護者に伝えようと、園と保護者会が今年初めて開いた。
三男を通わせている保護者会長の山谷奈津子さん(44)は、長男と次男が通っていた他の園で学習会を経験。「配置基準の問題は子どもたちに直結すると理解できる学習会は大切」と感じ、職員と開催に向け相談を重ねてきた。
学習会では、講師となった愛知保育団体連絡協議会(愛保協)の事務局次長、石原正章さん(62)が配置基準の歴史を紹介した。1948年にできた当初の基準に触れ、「1人で0歳を10人みられますか?」。0歳児の基準はその後、3度変わり、今では3人になった。年少の次男が通っている女性(43)は「この園は手厚い配置で安心だが、国の基準は子どものことを考えていないと感じる。署名で変えられるなら」と話す。
■ まだ人手不十分
同園では、きめ細かく園児に目を配るため、国の基準の約1・5~3倍の職員を配置。費用は保護者らの寄付で賄う。手厚い体制を確保することは、事故や不適切保育を防ぐだけにとどまらず、子どもそれぞれの発達に応じた対応を可能にするという。
例えば、他者に目が向き始める1歳児だと、遊びの中で友達をたたいてしまうことも。単にやめさせるのではなく、けがをしないよう見極めながら「○○ちゃん、おこってるよ」と相手にも気持ちがあることや、関わり方を丁寧に伝えている。散歩の時間でも、体調不良や行きたがらない子どもに寄りそうことができる。
弁護士でもある山谷さんは「こども基本法ができた中、より子どもの声を受け止める社会になるには人手が必要」と指摘。取り組みの輪を広げるため、「配置基準の実情を知ってもらうことで、その人の周囲にも運動の意義を伝えることができる」と話す。
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◆「全国組織」も発足
「保護者が関わることで、地域や職場の人たちも巻き込んで運動が広がっていく」。保育士の配置基準の改善を訴える運動の実行委員会のメンバーで、愛保協事務局長の田境敦さん(38)は語る。
「子どもたちにもう1人保育士を!」と銘打った運動は、2021年度に愛知県で始まった。開始当初から保護者が参加。保護者へのアンケートを実施すると、勤務先の同僚らの協力も得て、回答数は1400を超えた。うち、98%が「子どもの数に対して保育士の数が足りてない」。基準改善は保護者の願いだと訴える大きな根拠となった。
資料作りや記者会見への参加、議員訪問などで保育士らとともに活動。運動が全国に広がると、保育士よりも先に保護者による全国組織ができた。
本年度、配置基準は改善されたが、「経過措置」として未達成の施設も多い。全国保護者実行委員会などの調査では、基準を満たさない施設は全体の37・2%。また、1歳児については改善が先送りされた。愛保協事務局次長の石原さんは「子育て当事者である保護者の声だからこそ届く」と、運動の意義を説く。
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