2024/08/27
保護者「ルール自体問題」
厚生労働省は来年4月から、育児休業の延長審査を厳格化する方針を示した。育休延長には子どもが保育所に入れなかったことを示す書類が必要で、延長するために、あえて人気の高い保育所に申し込む「落選狙い」が相次いでいるためだ。秋に向けて自治体が来年度の各保育所の要項を準備する中、保護者らからは「落選しないと育休延長できないルール自体が問題では」との声が上がっている。(山野舞子)
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育児・介護休業法で定める育休期間は原則子どもが1歳になるまで。保育所に落選したなどの理由があれば最長2歳まで延長でき、国の休業給付金も受けられる。延長には落選したことを証明する「保留通知書」を職場を通してハローワークに提出する必要がある。
国は2025年4月から延長申請する際、新たに申告書の提出を求める。申告書には「遠方の施設のみを希望する場合、その理由」などを記入。入所の意志があるかどうかをハローワークが確認することもある。
今回の厳格化で国は「育休は原則1年。延長は特例措置」との姿勢を改めて示した形だ。厚労省の担当者は「長い育休は企業の人繰りの負担も大きく、休業給付金の財源面の問題もある」と話す。名古屋市立大の森田陽子教授(労働経済学)は非正規雇用で育休を取得しづらく退職せざるを得なかった人もいることを指摘。「給付金を1年で区切るのは妥当。受給の延長は育休が取れなかった人と不公平感が広がる」と話す。
一方で、国が待機児童解消のため育休延長制度を導入、周知してきた経緯があり、保護者間では「育休は2歳まで取れる」との認識が広がっている。11月に子が1歳になり、育休期間が終了する名古屋市昭和区の女性会社員(37)は、来年3月までの育休延長を希望しており、落選を視野に応募するつもりだ。「年度途中では希望の園にはまず入れないので、『落選狙い』と言われるのは違和感がある」と困惑する。夫が単身赴任中という同市南区の30代女性も1歳の育休終了時に延長を決め、落選目的で応募した。「復帰して時短勤務を使うと給料は減る上に、保育料の負担も大きい。悪いことのように言われるのはおかしいのでは」と話す。
主婦向けの調査機関「しゅふJOB総研」が今年1月に就労意欲のある女性589人に聞いた調査では「育休を取るとしたら2年まで延長したいと思うか」との質問に6割以上が「延長したい」と答えた。保育所の落選狙いについては「落選しなければ育休延長できないルールが問題」との意見が6割を超え、制度の不備だと認識する人が多かった。
日本福祉大の中村強士准教授(社会福祉学)は「希望すれば誰でも2年まで育休取得できるようにすれば良い。早期の復帰か長期の取得かを自分で選べることが、子育て支援や少子化対策になる」と指摘する。
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通知書交付 自治体に負担
保育所の落選狙いは以前から問題となっていたが、最近になって議論に上ったのは自治体からの事務手続きの負担軽減を求める要望がきっかけだ。
落選狙いが全国で問題となったのは2018年ごろ。落選狙いで入所を希望しない人が受かり、実際の希望者が入所できない事態が多発し、自治体には保護者からの問い合わせが殺到した。
本気の人を優先させるため、国は自治体に対応策を例示。名古屋市では、21年度から利用申請書に「直ちに復職希望」と「希望する保育所等に入所できない場合は育児休業の延長を許容できる」の選択肢を設ける。後者を選べば優先度が最低ランクとなり、人気の保育所を選ばずとも落選しやすい仕組みにしている。
自治体の多くが同様の対応をして混乱は落ち着いたが、自治体にとってはそもそも入所意志のない利用申請や保留通知の交付自体が大きな負担となっている。昨年の政府の有識者会議で自治体からは「保留通知を要件としない育休延長システムを」との要望が出ていたが、厚労省は「他の方法は実務上難しい」として変更しない方針だ。
愛知県内の自治体の担当者は「保留通知を出すのは変わらず、制度が変わることで問い合わせも来る。事務負担が減るとは考えにくい」と話している。
(メモ)
育児休業制度 育児休業の期間は原則子どもが1歳になるまで。親が仕事への復帰を目指しているにもかかわらず、保育所に落選したなどの理由があれば、最長2歳まで延長できる。育児休業給付金はその間、雇用保険から給与の50~67%が給付される。企業によっては独自に3年まで育休を認めているところもあるが、国からの給付金の支給は原則1年まで。
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