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【社会】日本版DBS 明確な解雇基準 不可欠

2024/06/20

性犯罪歴 対象拡大望む声

 「日本版DBS」創設法が成立した。保育園などの現場や性犯罪の被害者は一定の評価をする一方、確認を義務付ける性犯罪歴の対象拡大を求める声が上がる。雇用主側による行き過ぎた就業制限や配置転換、解雇といった乱用も危惧される中、判断基準となるガイドラインの作成に当たっては、職業選択の自由など労働者側の権利にも十分に配慮した丁寧な議論が求められる。

 「ここが第一歩。真に子どもを守れる社会をつくるため、大人の責任が問われている」。制度創設の要望活動を行ってきた認定NPO法人フローレンス(東京)の赤坂緑代表理事は19日午後の記者会見で意義を語った。

 政府関係者も「仕組みができることで厳しい目が増えていく」。性犯罪の前科のある人が子どもと接する業界から自主的に去るという法施行の“副次効果”も期待する。

 川崎市の「たつのこのはら保育園」の石丸慎介園長(50)は「性犯罪歴のチェックを受けた保育士らが現場に出ていれば、保護者の安心材料になる」。同園では性器や胸といった「プライベートゾーン」に関する教育も実施。子どもたちに「下着で隠れている部分は大切な所だから、触られたら周囲の人にすぐに伝える」と意識付けることで、性犯罪の防止につながると説明する。

 学習塾は任意の「認定制」となる。国の認定を受ければ性犯罪歴の確認が義務付けられる。個別指導塾「森塾」運営会社の執行役員堀貴司さんは「認定の有無を気にする保護者がいるかもしれないので、積極的に受けたい」と話す。

 日本版DBSは就業を事実上制限する強い効力を持つ。このため政府は憲法が保障する職業選択の自由との兼ね合いも考慮し、性犯罪歴の確認対象を裁判所が厳格に事実認定した「前科」に絞った。

 中学生時代の担任から性暴力を受けた経験がある石田郁子さん(46)は示談に伴う不起訴事案などが含まれていないため「中途半端な法律で終わってしまう」と実効性に疑問を呈する。

 運用上の懸念も指摘される。性犯罪歴が確認されなくても、子どもや親の訴えで「性加害の恐れがある」と判断されれば、最終手段として解雇も許容され得る。2人の娘が保育園に通う東京都内の男性会社員(40)は、保護者が気に入らない人を辞めさせようとして「保育士ら職員が、ぬれぎぬを着せられるケースも起きるのではないか」と話す。

 こども家庭庁幹部は「制度の恣意(しい)的な運用があってはならず、客観的事実の把握や関係者の聴取などプロセスを踏むことが必要」として、専門家らを交えてガイドラインを作成する意向だ。

 労働法制に詳しい岐阜大の河合塁教授は、子どもの安全を確保するため、一定の就業制限は「やむを得ない」と話す。ただ生計の手段を奪う解雇は「証拠に基づく事実確認ができた場合に限定するなど慎重であるべきだ」と強調し、労働者側の権利にも十分に配慮して、ガイドラインで明確に基準を示す必要があると指摘する。性犯罪歴のある人らの更生教育や治療、就労支援を行う環境を国の責任で整備することも重要だとしている。