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【くらし】休職者のリワーク支援 拡大へ 4月から 障害福祉事業者のサービス利用可

2024/03/01

利便性向上も 質の確保が課題

 うつ病などで休職中の人が、4月から障害福祉サービスのリワーク(復職支援プログラム)を全国で受けられることになった。病への理解を深め、ストレス対処法などを学べるリワークは、これまで主に医療機関や各県の地域障害者職業センターが実施。制度改正により、今後は障害福祉の事業者が広く担えるようになる。多くの事業者の参入が予想され、質の確保などが課題となりそうだ。(五十住和樹)

 ◇ ◇ ◇

 「前の自分に戻るのでなく、新しい自分になって職場に戻りたい」。昨年12月中旬、復職支援や障害福祉のサービスを担う会社「リヴァ」の東京都内の事業所で、5月から適応障害で休職中の男性(34)はこう話した。自分の考えを深め、さらに多様な意見があることを知る「ダイアログ(対話)」という2時間のプログラムで、約10人の男女が「あなたにとって進むとは」をテーマに話し合っていた。

 うつ病で休職中の女性(32)は終了後、「自分を客観視する時間が持てた」と振り返った。同じような境遇の参加者が悩みを打ち明け合い、一緒に考える。書籍で情報を得てこのリワークを選んだといい、「困難にどう対処したらよいかが分かった。今後の人生に向け、すごく大事」と話す。

 うつ病の背景には職場でのストレスなどがあるとされる=表。同社には、ストレス対処法を学ぶ集団認知行動療法や、仕事の価値観などを考えるキャリアワークなどのプログラムもあり、都内の事業所の利用者は6割超が20~30代という。

 従来、障害福祉の事業者が担う就労系のサポートは、障害者が新たに職を得る時の支援が中心。休職中の人は原則対象外だが、各自治体が条件などを満たしたと判断すれば、休職者も利用可能だった。同社も都を含む複数の自治体から認められ、休職者にリワークプログラムを提供してきた。

 今春からは、障害福祉サービスの報酬改定などにより、休職中の人も全国で、障害福祉の事業者によるリワークを使えるようになる。厚生労働省によると、自治体による差をなくすことなどが狙い。休職中の人が復職を目指す場合、就労系の障害福祉サービスを企業の定める休職期間の終了まで(上限2年)使えるという。リヴァ取締役の青木弘達さん(48)は「利用者にとって通いやすい事業所が増える。自分の特性や希望する仕事を考えて選べる」とメリットを話す。

 ただ、休職中の復職支援と障害者雇用を目指す就労支援は、サポートの内容が全く異なる。そのため参入する障害福祉の事業者が適切なリワークプログラムを提供できるかが問われる。

 医療機関のリワークでは、治療と再休職の予防を目的に集団で長期間行う。精神科医ら専門職が長時間観察することで診断の精度を高められるといい、うつ病の人に双極性障害や発達障害があると分かり、治療内容が変わることもある。

 206の医療機関が所属する日本うつ病リワーク協会(東京)の五十嵐良雄理事長(74)は「福祉施設でのリワークは無資格でも運営でき、利益追求優先の施設もある。リワークを提供する医療機関がない地域もあるとはいえ、制度改正により、本来就労支援が必要な障害者が排除される可能性がある」と話す。

 リワークに詳しい杏林大の中村美奈子准教授(50)=産業心理臨床=は「生活リズムを整えるところから働けるレベルに達するまで、復職のためには多様な段階がある。段階をきちんと踏んだプログラムを提供できる事業者が必要。リワークの裾野が広がるのはよいが、質をどう担保するか。利用者も見極めないといけない」と指摘する。