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【暮らし】プログラマー育成 連携 

2023/06/15

企業と施設 障害者の就労 広がり模索
名古屋 人材不足 解消も期待

 システム開発会社と、障害者就労支援施設がタッグを組み、プログラマーの育成に力を入れている。障害者が働く場は軽作業が中心で賃金が低い傾向にある中、プログラミングの技術を身に付け、働き方の幅を広げてもらう目的がある。不足するIT人材の確保にも期待がかかる。(熊崎未奈)

 先月中旬、名古屋市中川区の障害者就労継続支援A型事業所「フローラ」では、精神障害や発達障害のある利用者十五人ほどが、パソコンに向かってキーボードを打ったり、利用者同士で相談したりしながら、ホームページやアプリの制作作業に取り組んでいた。

 利用者の多くは、もともとプログラミングの経験はない。知識や技術を教えたのは、同市中区のシステム開発会社「フリースタイル」の社員たちだ。

 同社は自社社員に行っていたプログラミング教育を障害者の就労支援に役立てられるのではと、二〇一七年にいくつかの施設に声を掛け、導入を提案。その中の一つがフローラだった。

 プログラミングの考え方から始め、スマートフォンアプリの開発の手順、プログラミング言語の扱い方を習得する。最終的には、ホームページやアプリの制作などを外部企業から受注し、実際に業務に当たってもらうことを目指した。

 ただ、障害のある利用者たちが業務を担うには課題も多かった。就労支援施設では一般企業に比べて就業時間が短い人が多いため、夜間や休日にシステムトラブルが起きた際などの緊急対応が難しい。依頼元の企業との折衝など窓口業務も負担が大きかった。

 そこで昨年六月、フローラとフリースタイルは業務委託契約を締結。緊急対応や窓口業務などをフリースタイルが担当し、障害があってもプログラミング業務を遂行できる体制にした。さらに今年から、インターネット上の仮想オフィス「GatherTown(ギャザータウン)」を利用することで、離れた場所にいながら同じ空間に「出勤」し、質問や相談をしやすくした。

 今年二月には、ギャザータウンの日本での運営会社から、仮想空間で開く展示会で来場者の行動を記録する機能などの開発を受注。フローラの利用者五人が開発を担った。その一人、伊東葵(まもる)さん(44)は「プログラミングを勉強するからには、仕事につながるといいと思っていたが、実際に役に立つコンテンツが作れて良かった」と喜ぶ。

 フローラの職業指導員、勝間田勝さん(47)は「一般就労を目指す障害者にとっても大きな力になる」と話す。プログラミングの研修を始めてから、これまで四人が一般企業に就職したという。フローラでは、習得した技術に応じて賃金を最高で時給千五百円に昇給させ、障害者の自立につながるようにしている。

 フリースタイルのシステム開発事業部長、加藤直人さん(59)は、IT業界の人材確保にもつながることを期待する。IT人材の需要は高まっているが、三〇年には最大七十九万人が不足するという国の試算もある。「私たちの連携の形が、IT業界と障害者の就労支援をつなぐ新たなモデルになれば」

プログラミングの業務に取り組む男性利用者=名古屋市中川区のフローラで(一部画像処理)
プログラミングの業務に取り組む男性利用者=名古屋市中川区のフローラで(一部画像処理)
フリースタイルの社員とフローラの利用者が「出勤」する仮想オフィス
フリースタイルの社員とフローラの利用者が「出勤」する仮想オフィス