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【社会】トラック 来春から残業規制 迫る運転手不足 改革急務

2023/04/10

 トラック運転手の残業時間の上限を年間九百六十時間に規制する働き方改革の法律適用まで、残り一年を切った。長時間労働の見直しが期待される一方、物流業界の人手不足の深刻化も予想され「二〇二四年問題」と呼ばれる。スムーズな物流の維持には人材確保や業務の効率化が急務だが、運送業特有の過当競争や低賃金などの課題が行方を阻む。(武藤周吉)

 「長時間労働をやめれば仕事は回らないし、稼ぎは減る。身を削って働くしかないんだ」

 愛知県内の運送会社で長距離トラック運転手として働く男性(61)は、休憩中だった名古屋市港区の駐車場で、ため息交じりにつぶやいた。深夜を中心に東北や四国などに向けて八~九時間運転し、機械類を運ぶ。荷物積み降ろしの際の待ち時間は一、二時間は当たり前で、時には半日以上の待機を余儀なくされる。五泊六日の拘束期間中は車内で寝泊まりする。そんな過酷な労働だけに「人手が足りず、(会社が)断る仕事もある」という。

 厚生労働省の調査によると、トラック運転手の労働時間は全産業平均と比べて約二割長い半面、賃金は一割程度低い。長時間労働と低賃金が敬遠され、有効求人倍率は二倍程度で推移。新たな担い手が乏しく、四十歳以上が四分の三を占めるなど高齢化が進む。

 給与体系に歩合制が組み込まれているのが大半で、労働時間の短縮は賃金水準の低下に直結するジレンマがある。男性は「長時間労働の見直しは歓迎すべきだが、稼げなくなれば辞める人が続出し、人手不足に拍車がかかる」と見通す。

 人材確保には労働に見合った賃上げが待ったなしだが、中部地方を中心に自動車部品などを輸送するトラック運送業のテスコ(愛知県豊明市)の方喰理将(かたばみまさゆき)社長(40)は「燃料費などの物流コストが上昇する中、運賃は上がらず、十分な賃上げはできていない」と語る。

 国土交通省は適正なコストを反映した「標準的な運賃」を公表し、荷主側と定期的に運賃交渉をするよう促しているが、「安く請け負う同業者がいる以上、交渉は簡単ではなく、現実と乖離(かいり)がある」と明かす。

 中小企業庁の調査では、価格転嫁ができている割合は業種別でトラック運送業が最下位だった。方喰社長は「労働環境と待遇を改善しない限り、トラック業界で長く働く人がいなくなる。安全で安定した物流を維持するには一定のコストがかかると社会全体に理解してもらいたい」と訴える。

    ◇

賃上げや効率化
荷主優位、過当競争が壁に
 物流の二〇二四年問題は、消費者の生活にも影響を与えそうだ。野村総合研究所の試算では、三〇年には全国の35%の荷物が運べなくなる事態に。人口密度の低い地方ほど影響は大きく、企業間物流を中心に運送頻度が低下すれば、食卓に並ぶ農産物などの輸送も滞ることになる。

 西濃運輸(岐阜県大垣市)など一部の企業は、長距離輸送の一部を貨物列車に切り替える「モーダルシフト」や、大型トラックでトレーラーをけん引するダブル連結トラック、他社との共同配送の導入などの自助努力を続ける。

 ただ、効率化の取り組みには荷物の運搬を依頼する「荷主」の協力が欠かせない。国の有識者検討会は今年一月の中間取りまとめで、荷主側の納品回数や荷待ち時間の削減などが必要だと指摘した。

 中部地方の物流に詳しい企業経営総合研究所の丹下博文代表によると、一九九〇年の規制緩和でトラック業界への新規参入が相次ぎ、事業者が一・五倍に増加。99%以上が中小企業で多重下請けの構造が常態化し、運賃値下げの過当競争を招いた。こうして、荷主の立場が圧倒的に強い環境となり、運賃交渉が難しくなっている。

 丹下代表は「物流費はコスト削減の対象と考える荷主企業が多く、改善の動きは鈍い。物流への意識が社会的に低く、実際にモノが運べなくなるまでは危機感が広がらない」と指摘する。その上で「抜本的な対策には運転手の賃金の引き上げしかないが、その糸口は見つからないのが実情だ」と話す。

車内で運転手が休憩している大型トラックの駐車場。労働環境の改善は急務だ=名古屋市港区で(一部画像処理)
車内で運転手が休憩している大型トラックの駐車場。労働環境の改善は急務だ=名古屋市港区で(一部画像処理)