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【くらし】がん退職後の不安軽く 「お金は」「暮らしは」 ネットに支援情報

2023/02/21

考える会 治療費、健保…制度知って

 がんになった時、治療の不安に加え、大きな悩みとなるのが働き方やお金の問題だ。がん患者のための支援制度の情報などをまとめたウェブサイト「がん制度ドック」を運営するNPO法人「がんと暮らしを考える会」(東京)理事長の賢見(けんみ)卓也さん(47)は「働き続けたい人への支援とともに、退職せざるを得ない人や、退職を望む人たちの不安を和らげる情報提供が重要だ」と指摘する。(小林由比)

 がん制度ドックは、がんの部位や病状、家族構成、加入している健康保険の種類など約二十項目の質問に答えると、利用できる可能性のある制度や申請窓口などの情報が一覧できる仕組み。医療費が高額になった時に負担を減らす高額療養費制度や健康保険組合の付加給付、障害状態と判断された際に受け取れる障害年金や老齢年金の繰り上げ受給など、各制度の概要や申請の仕方が分かる。

 看護師として訪問看護の仕事をする賢見さんが二〇一三年に開設。賛同するファイナンシャルプランナー(FP)や社会保険労務士、弁護士らと協力し、定期的に内容を更新している。中でも近年、賢見さんが必要性を感じているのは、五十~六十代を中心に仕事を辞めるかどうか悩んでいる人向けの情報提供だ。

 同NPOが一月半ばに都内の会場とオンラインで開いた講座では、社労士の石田周平さんが「今まで通りの仕事ができない、今の仕事を続けていては思うように治療ができないという場合、退職の選択肢も前向きに考えてよいのでは」と助言。生活を支える各種制度の手続きなどについて解説した。

 石田さんによると、退職を決めたら、二カ月前には上司に意向を伝え、有給休暇の消化も含め退職日の調整をする▽一カ月前からは仕事の引き継ぎを計画的に行い、就業規則を確認して退職届を提出する▽退職証明書を職場に依頼する-といった流れになる。

 退職したら健康保険の切り替えが必要だ。健康保険に加入している家族の被扶養者になれば、保険料はかからない。自分で加入する場合は、退職した会社の健康保険に最大二年間、任意継続で加入するか、国民健康保険に切り替えるかを選択する。扶養家族の数や以前の年収などによって保険料が異なるため注意したい。二人以上扶養する場合は任意継続の方が安く済むケースが多いという。

 年金は配偶者の扶養に入るか、国民年金に切り替える。国民年金は経済的に苦しい場合の減免制度もあるため、未納期間をつくらないよう窓口で相談したい。失業保険は受給まで最短でも三カ月かかるため、離職票が届いたらなるべく早く申請することが大切だ。

 休職中に支給されていた健康保険の傷病手当金は、一定の条件下で退職後もしばらく受け続けることができる。患者の家族に対し、雇用保険から介護休業給付金が出るケースもある。

 賢見さんが「退職支援」の重要性を感じたのは約十年前、大手メーカーで正社員として働いてきた五十代の女性ががんになり、看護師として悩みに伴走したことが原点だ。女性は「会社に迷惑をかけたくない」と退職の意思は固かったが、収入が途絶えることへの不安が非常に強く、精神的に不安定になっていた。

 だが、社労士も交えた話し合いの場を設け、障害年金の受給手続きができることや、雇用保険の基本手当を受けながらパートタイムの仕事を探すことなどを提案するうちに徐々に前向きになり、七年ほどの闘病生活を安定して送ることができた。「退職という選択をしても、さまざまな支えがあることを知ってほしい。がん制度ドックを活用したり、専門家に相談する機会を持ったりしてほしい」と呼びかける。

    ◇

「解決策探る場所ある」
病院内に相談センターも
 「がんと暮らしを考える会」は、病院内でもお金や仕事の相談ができるよう、提携している首都圏などの医療機関に社労士やFPを派遣している。

 連携先の一つ、虎の門病院(東京都港区)がん相談支援センターでは、がん専門相談員の研修を受けた専従の看護師と医療ソーシャルワーカー(MSW)のほか、公認心理師も相談に応じている。

 「経済的な困り事を相談することに抵抗感がある患者さんもいるが、医療費の制度などを説明する中で、お金の不安についても話してもらえるようになる」とMSWの川村奈瑠実さん。住宅ローンの返済、万が一自分が亡くなったときの保険や相続に関する相談など内容は多岐にわたる。

 同センターが月一回開く個別相談会では川村さんと看護師の鈴木亜優さんに、社労士とFPも加わり、チームで解決策を探る。「患者さんが相談しやすい雰囲気をつくるように心がけている」と鈴木さん。「病気で体力が落ちている中、制度を理解し、活用するのは大変なこと。本人や家族だけで抱え込まず、一緒に考える場があることをぜひ知ってほしい」と話す。

「がんで退職する人への情報提供は大切」と話す賢見卓也さん=東京都内で
「がんで退職する人への情報提供は大切」と話す賢見卓也さん=東京都内で