2009/02/14
製造業を中心に、失業者が急増している。単純労働を強いられてきた非正規労働者が“はい上がる”には、技能向上は欠かせない。そのための公共職業訓練はしっかり機能しているのか。現状を探った。 (服部利崇)
「誰でもできる単純な仕事しか回ってこなかった」
製造業の元派遣社員小野政美さん(47)は昨年十月、「派遣切り」に遭い、社宅も追い出された。ネットカフェなどを転々とし、昨年末、東京都千代田区の日比谷公園に設置された「年越し派遣村」に入村。生活保護申請が認められ、現在は職探しの毎日だ。
北海道出身。高校卒業後、転職を繰り返したが、正社員に就けるうちは生活に困らなかった。しかし四十歳になったころ、北海道の経済が悪化し「非正規」しか仕事がなくなった。仕事に就けず、生活保護を受けた時期もあった。
自分を変えたいと、古里を離れ、自動車工場の派遣労働者として関東地方で働き始めた。だが仕事は車体組み立てラインへの部品補充や車両部品へのメーカー名打刻など「単純作業ばかり」。それも「仕事が遅い」と若者に仕事を奪われ、契約期間を二カ月残し、中途解除となった。
技能不足がうらめしい。「職業訓練なんて頭になかった。スキルや資格を身に付けていたら、こんな苦労はしなくて済んだかも」
◇
小野さんのように、非正規労働から抜け出せない人は少なくない。総務省の二〇〇七年就業構造基本調査では、過去五年に転職した人のうち、非正規から非正規は約四百九万人。一方、非正規から正規は約百四十七万人にとどまっている。
厚生労働省能力開発課は「技能や実践力がないと、非正規に滞留してしまう」と、安定雇用のため職業訓練の必要性を訴える。だが受け皿が足りているとは言い難い。
総務省の労働力調査によると、昨年十二月の完全失業者は二百七十万人。対して、国や都道府県が実施する離職者訓練の〇九年度計画人数は約十九万人でしかない。最近の失業者増を受けた緊急措置で三万五千人を追加してもこの数字だ。
当然、応募倍率も高くなる。国実施の職業訓練(昨年四月-十二月開講分平均)は一・八八倍だったが、都市部ではコースによっては四倍を超え、訓練を受けられないケースも増えている。横浜市の元派遣社員の女性(35)も昨年十月開講の訓練に落ちた。「スキルがないと正社員になれない」と焦ったが、一月開講分に何とか滑り込めた。
一方で「職業訓練の存在自体を知らなかった」と、国や都道府県のPR不足を非難する声も上がる。雇用・能力開発機構神奈川センターで組み込みマイコン技術を学ぶ神奈川県横須賀市の山田亮太さん(26)は専門学校卒業後、六年間非正規労働に携わった。「遠回りした。もっと前に訓練を始めていれば…」と悔やむ。
日本の職業訓練体制は、先進国の中でも最低ランクだ。経済協力開発機構(OECD)によると、公的な職業訓練投資額は対国内総生産(GDP)比で、日本は〇四年から三年連続で0・04%。一方フランス、ドイツは0・3%前後を維持している=グラフ参照。
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科の小島貴子准教授(職業指導学)は公共職業訓練は質量とも拡大すべきだと訴える。
「再就職できないのは、前の仕事で覚えた能力が必要とされていないから。単純作業が中心の非正規労働者ならなおさらで、新しい能力を身に付けないと転職できない。大量失業時代を迎え、職業訓練は絶対不可欠だ」
<公共職業訓練> 国(雇用・能力開発機構)や都道府県が行うほか、国などから委託を受けた民間事業者も実施。離職・在職・学卒者対象に分かれ、離職者のみ無料(テキスト代除く)。在職者の訓練期間は長くて一週間。離職者は三カ月から一年、学卒者は一年または二年。国実施は、機器に費用がかかるものづくり系訓練に特化され、事務系の民間委託が進められている。
転職・求人情報検索(名古屋市・愛知県・岐阜県・三重県)はトップから