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【くらし】年金充実 広がる保障 保険料負担で手取り減も

2022/10/06

 短時間労働のパート・アルバイトへの社会保険(厚生年金、健康保険)の加入義務化が今月から、中小企業に拡大された。賃金や労働時間が一定以上の人が対象で、これまで扶養の範囲で働いてきた人は新たに保険料の負担が生じるが、年金額の充実や働けなくなった時の保障などのメリットも多い。 (河郷丈史)

◇ ◇ ◇

 パートやアルバイトとして短時間で働く人は社会保険の加入対象ではなかったが、国は労働者の保障の充実などを目的に対象を段階的に拡大。従業員数(被保険者数)が501人以上の企業で働く人は2016年10月から対象となった。今月からは、中小企業を含む従業員数010人以上の企業が加わり、新たに45万人が加入対象に。24年10月には51人以上の企業にも広がる。

 ただ、全てのパート・アルバイトが加入するわけではなく、賃金や労働時間などが一定の条件を満たしている必要がある。具体的には「週の所定労働時間が20時間以上」「賃金の月額が8万8000円以上」「2カ月超の雇用見込みがある」「学生ではない」-だ。

 三重県で暮らす40代の女性は、パート従業員として月10万円ほどの給与を得てきたが、勤務先が今月から社会保険の対象となった。数カ月前、「社会保険に加入するか、それとも勤務を減らして加入しないか」と勤務先から意向を聞かれ、「どうすればいいのか」と戸惑った。これまで夫の扶養から外れないよう、勤務を制限してきたからだ。

 会社員や公務員の配偶者に扶養されている年収130万円未満の「第三号被保険者」の場合、年金や健康保険の保険料を個別に負担する必要はない。このため、扶養の範囲内で働いた方が有利だとして、130万円に届かないよう勤務を制限する人も少なくなかった。

 だが、今月からは101人以上の企業に勤務している場合、賃金月額8万8000円以上などの条件を満たせば、年収130万円未満であっても扶養から外れ、パート先で社会保険に加入しなければならない。社会保険料は勤務先と折半して負担することになっており、女性のように月10万円(年収120万円)の給与を受け取ると、厚生年金保険料の自己負担は約9000円。健康保険料は健保の種類や地域によって違うが、おおむね5000円程度だ。こうした保険料が給与から天引きされる分、手取りが減ることになる。

 保険料の負担から加入をためらう人もいるが、企業への労務コンサルティングなどを手がける社会保険労務士法人「とうかい」(名古屋市)の社会保険労務士、小栗多喜子さん(40)「社会保険加入は働く人にとってメリットが大きい」と話す。その一つが、年金額の充実だ。

 年金は国民年金と厚生年金の「二階建て」で、厚生年金に加入すれば、老後に老齢基礎年金に加えて二階部分の老齢厚生年金を受け取れる。老齢厚生年金は働く人の報酬に比例して上乗せされる仕組みで、例えば年収120万円で10年働けば、年金額は月5000円ほど増える計算だ。公的年金は老齢年金のほか、病気やけがで障害状態になった時の「障害年金」、本人が亡くなった時に家族が受け取る「遺族年金」があり、厚生年金に加入することで給付が上乗せされたり、保障の幅が広がったりする。

 また、健康保険の加入者になれば、病気やけがの療養のために仕事を休んだ時、健保の「傷病手当金」を受けられる。おおむね給与の3分の2が最長1年半、給付される手厚い保障だ。また、出産のために仕事を休んだ場合、出産前の42日間と産後の56日間、給与の3分の2に相当する「出産手当金」も支給される。いずれも、扶養に入って働く人は対象とならない制度だ。

 「130万円の壁を気にせずに働けることもメリット」と小栗さん。扶養の範囲という限定的な働き方を改めれば、より多くの収入を得たり、キャリアを磨いたりすることにつながる。一方、企業にとっても社会保険料の負担が増えるが、「人手不足が課題となる中、優秀なパート従業員を確保し、活躍してもらうことで、組織としての生産性が高まる」と説く。

 勤務先から意向を聞かれていた女性は、社会保険に入って働くことを決めた。年収を130万円未満に抑えるために勤務を調整するのは面倒だと感じてきたし、働く時間をさらに増やせば、保険料を引かれても収入を減らさずに済むと考えた。「中高生の子どももいるので、まだまだ働きたい」と話す。