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【社会】就職支援「考える余裕なんてない」 氷河期世代冷たい視線

2022/07/26

愛知県職員は44歳に引き上げ
官民 広がる採用条件緩和

 一九九〇年代初頭のバブル崩壊後に就職難や非正規労働の拡大に直面した「就職氷河期世代」への官民の支援が動きだした。収入が不安定なまま働いている三十代半ばから四十代半ばの人が老後を迎える時期に、年金がなかったり、生活保護に頼る人が激増すると指摘されている。国は氷河期世代の集中支援に乗り出す方針だが、打ちひしがれた当事者らは「どれだけ効果があるのか」と冷静に受け止めている。 (今村節)

 ◇ ◇ ◇

 今月五日、名古屋市内で開かれた氷河期世代向けの合同企業説明会。愛知、三重両県のハローワークが初めて企画し、製造業や警備会社など二十四社のブースに、計百九十六人の求職者が詰め掛けた。

 その一人、名古屋市に住む男性(45)が新卒で就職活動をしたのは、一九九五年末、大学三年の時だ。多くの企業が人件費を削るために新規採用を抑えていた「超氷河期」の時期。営業希望の男性は面接を何十社も受けた末、食品卸会社からようやく内定をもらった。

 しかし、上司からいじめられ、二年後に会社を辞めた。再就職先は廃業。配送、駐車場管理会社など計七社を転職し、今は量販店の非正規のレジ係として働いている。時給は千二百円前後。今夏のボーナスは一万円、冬は八万円だった。

 正社員の職を求めて、この三年間で百社ほど面接を受けた。就活イベントにも足を運んでいるが、隣に座った二十代が持っているパンフレットが自分には渡されないことがある。採用担当者から「上司が年下でも大丈夫?」「うちの会社は平成生まれが多いですよ」などと言われると、遠回しに拒まれていると感じる。

 国は就職氷河期世代の支援に三年間で六百億円を投じる方針だが、厳しい現実を知る男性は「雇用が広がるとは思えない」と懐疑的だ。「大学までは順調に来て、こんな人生を歩むとは。生まれた時代が悪かったし、運命だと思うしかない」と自分に言い聞かせる。

 不安定な雇用に翻弄(ほんろう)され続け、気力を失っている人も少なくない。製造業の派遣社員として働く名古屋市内の男性(47)も、九〇年代中ごろに就職活動をした一人。大学卒業後に勤めた会社を辞めてから約二十年、正社員には戻れていない。

 仕事は日給制で、一人暮らしの家賃と生活費で精いっぱい。「派遣をずっとしていると一週間先さえ見えず、再就職など将来を考える余裕はない」と話し、非正規労働の待遇改善が先決だと訴えた。

 一方、二〇〇七年に市民団体「氷河期世代ユニオン」を設立した小島鉄也さん(44)=愛知県豊川市=は「景気が悪い時期に就職が重なった人は『不運』では片付けられない。国に続き、企業の中途採用が進むのでは」と、支援の拡大を好意的に受け止めている。

 リクルートワークス研究所(東京)の調査によると、就職希望者一人当たりの求人件数を示す大卒求人倍率は、一九九三年三月卒で二倍を割り込み、二〇〇〇年三月卒で一倍を切った。現在も氷河期世代の約五十万人が不本意なまま非正規で働いているとされ、政府は三年間で約三十万人を正社員化する目標を掲げる。

 自治体も支援に動き、兵庫県宝塚市では今年、氷河期世代に対象を広げた正規職員の求人に約六百倍の応募が殺到。愛知県は一六年、社会人を対象にした職員採用試験の年齢上限を全国に先駆けて三十歳から三十九歳に広げ、今年は四十四歳に引き上げた。滋賀県や三重県四日市市も氷河期世代の採用を検討している。

 年齢を限定した求人は法律で原則禁止されていたが厚生労働省は今夏から氷河期世代の限定求人をハローワーク経由で解禁。民間の就職サイトや企業個別の求人でも認める見込みだ。

 人材不足に悩む中小企業からは「社員が高齢化しており若手としてほしい」(名古屋市の警備会社)「転職しやすい二十代よりいい」(愛知県内の製造業者)など、支援策に期待する声が上がっている。連合の仁平(にだいら)章・総合政策推進局長も「自治体、企業などが協力して対策をとることで安定雇用につながる」と歓迎しつつ、「単なる人材供給事業にならないよう留意が必要だ」と指摘した。