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【社会】男性育休 取得1割 希望8割 消極的企業は「採用で不利」指摘

2022/07/04

独自制度導入 意欲向上 職場にプラス

 20~30代の男性の間で育児休業の取得への意欲が高まっている。男性が子育てに参加できる環境づくりが企業活動に好影響を与えるとの調査結果もあり、会社独自の制度を整える企業が出てきている。とはいえ、現実には取得は必ずしも進んでいるとは言えない。育休取得に後ろ向きな企業は採用面で不利になるとの指摘があり、専門家は「ニーズに対応する必要がある」と促す。(小西数紀)

◇ ◇ ◇

 「今の若い世代は両親も共働きが当たり前。子育ては男女平等と考えている」。人材サービス会社パーソルキャリア(東京都)の喜多恭子執行役員は言う。

 昨年、同社が二十~五十九歳の男性計五百五十五人に実施した意識調査で、二十、三十代の八割が「育休を取得したい」と回答した。

 一方で厚生労働省によると、法律で定められた育児休業の取得率は二〇二〇年度で12・65%にとどまる。同社の調査では40・9%が「収入が減るかも」、続いて「勤務先に迷惑を掛けるかも」(38%)と回答。金銭面での不安や職場への影響を懸念する声も多い。

 喜多執行役員は「先輩社員のモデルケースが少なく、不安が払拭できていない」と指摘。一方で育休を取得しやすいかは就職、転職活動する人も注目しており、そうでない企業は「採用面で不利に働く」と話す。

 ■不安払拭
 育児休業と並行して、より利用しやすい会社独自の制度を整え、男性社員に育児参加を促す企業もある。

 トヨタ自動車グループのアイシン(愛知県刈谷市)は二〇年四月に出産一年以内に有給休暇とは別に計五日間休める制度を導入。給与を全額払うようにし、収入減の不安を払拭した。その結果、二一年度には対象の男性社員全員が、この制度か育児休業を利用した。

 「有給は別の用途のために残しておきたい。有給以外で休めるのはありがたい」。同社の伊藤道宏さん(39)は四月に生まれた次男の育児のため、制度を利用中。長男が幼稚園から早く帰る日に合わせて休みを取り、妻に体を休めてもらう。

 同社の働き方改革を支援するコンサルタント会社「ワーク・ライフバランス」(東京都)の大畑慎護経営企画室長は「企業が全員取得を目指せば、育休取得を言い出しづらい空気をなくせる」と指摘する。

 ■好循環
 育休取得はむしろ企業に好影響をもたらすとの調査結果もある。

 法政大キャリアデザイン学部の武石恵美子教授(人的資源管理論)らが一〇年に三百人以上の企業で部下が育休を取得した管理職千四十九人に行ったアンケートでは、男性らの育休取得の際の職場への影響が「プラス」と答えた割合は32・3%と、「マイナス」の12・1%を上回った。中でも育休を「歓迎した」と回答した職場では「プラス」回答が七割を超えた。

 武石教授は「仕事を別の人に引き継ぐことで、従来の業務手法や仕事の割り振りが適正だったかなどをチェックする機会になっている」と指摘。「企業は顕在化する男性育休のニーズに対応する必要がある。仕事だけでなく家庭にも時間やエネルギーを配分してもらうことで、モチベーションが上がり職場への定着が進む好循環につながる」と説明する。

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会社規模や業種で格差
 男性の育休取得は人員が豊富でカバー態勢が組みやすい大企業で進む一方、人手の少ない中小企業では遅れがちだ。

 二〇二〇年に厚労省が三千五百九十一事業所に行った調査では、五百人以上の事業所の取得率が13・09%だったのに対し、五~二十九人の事業所では9・68%にとどまった。業種別では金融・保険業の31・04%やサービス業の18・02%、情報通信の14・84%に比べ、現場作業を伴う電気・ガス・水道業などは2・95%、建設業は6・80%と格差は大きい。

 男性の育児参加推進を目指すNPO法人「ファザーリング・ジャパン」の安藤哲也代表は「中小企業や人手の足りない業界では、そもそも有給休暇の取得すらままならない企業もある。男性育休が当たり前になっている会社との二極化が進んでいる」と指摘する。

 安藤代表は「今は就職説明会で、学生から育休が取れるかどうかなどに質問が集中するような時代。企業側も『男は仕事、女は育児』という旧来の意識を改め、管理職への研修を充実させるなど育休を取りやすい環境をつくっていくしかない」と話す。

(メモ)
 男性の育児休業 現在、男性の場合は、子どもが1歳になるまで最大で2回休みを取ることができる。法律で定められており、期間中は雇用保険から最大でそれまでの手取り給与の約8割の給付金が支払われる。2021年の法改正では企業に対し、社員への育休制度の周知徹底や意向確認を義務付けた。今年10月には男性が育休を最大4回に分けて取得できる制度も始まる。23年4月からは大企業に男性取得率の公表も義務化される。政府は25年までに男性の取得率30%を目指すなど、男性の育児参加を進めて女性の活躍推進につなげる。

2人の子どもの世話をする伊藤さん=本人提供
2人の子どもの世話をする伊藤さん=本人提供