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【経済】「安い」を追う/賃上げかき消す物価高

2021/03/25

「予想外」の急上昇 目減り懸念

 岸田政権が「成長と分配の好循環」の起点に位置付けた今春闘では、先進国の中でも安い賃金が改善されるかが注目された。トヨタ自動車をはじめ満額回答が相次いだものの物価が急ピッチで上昇。賃上げが追いつかずに実質では目減りする懸念が出ている。賃上げ余力に対し「要求が控えめだった」との指摘もある。(平井良信)

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 連合が十八日に公表した一次集計の賃上げ率は2・14%(定期昇給含む)と前年比0・33ポイント増加。業績回復が顕著な自動車や電機を中心に労組のベースアップ要求に満額回答が目立ち、三年ぶりに2%を超えた。

 経団連の十倉雅和会長は「賃金引き上げのモメンタム(勢い)は着実に維持・強化されている」と評価。連合の芳野友子会長も「人への投資に経営側も重きを置いた」と語り、労使共に順調な出だしを歓迎した。今後は、非製造業や中小企業への波及が焦点となる。

 ロシアのウクライナ侵攻による原油高や円安で、食料品やエネルギーの価格高がじわじわと家計を圧迫。二月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月比プラス0・6%だが、格安プランが広がった携帯電話料金の押し下げ効果を除けば2%程度に達している。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長は「物価の上昇局面の賃上げとしては物足りない。業績が回復した企業は、もう少し高い要求ができる環境にあった」と指摘する。

 労組側は今春闘でも「過去最高に積み上がった内部留保を人に投資すべきだ」と訴えた。しかし、コロナ禍からの回復は業種で差があるため、連合はベースアップ要求を七年連続の「2%程度」に設定。定期昇給分と合わせ計4%程度としたが、今月一日までに要求した二千五百二十二組合の平均は2・97%と前年比0・33ポイント増にとどまった。

 物価の上昇に賃上げが追いつかなければ、実質賃金は下がり、家計はより苦しくなる。労組関係者は「これほどの急な物価上昇は、予想できなかった」と話す。

 斎藤氏は「分配の余力がありながら、労組側が高い要求をしないのは、長年のデフレマインド(意識)が影響している。物価が上がることを意識し、環境に見合った賃上げを実施することが重要だ」と強調する。

16日の集中回答日に各社の状況をホワイトボードに書き込む担当者=名古屋市熱田区の連合愛知で
16日の集中回答日に各社の状況をホワイトボードに書き込む担当者=名古屋市熱田区の連合愛知で